そのあと、無事駅に届けることが出来た。
女性は最後まで、私とイケメンさんにお礼を言っていた。
やがて女性が去っていくと、二人でバス停まで歩き始める。
その間は無言だったけど、苦じゃなかった。
一緒に痴漢を撃退した人。
そのくらいの関係だし、それまでの関係だろう。
寂しけど。
だってイケメンだし。
それにしても、どこの高校の人なのかな。
学ランはこの辺りの高校では珍しくないし、うちの高校は指定のカバンがある訳でもないから、彼が持っている学生カバンじゃ判断できない。
せっかくだし高校名だけでもと、口を開く。
だけどその時、ちょうど地面に段差があって、つまずいた。
やばっ……と思った時にはもう遅い。
べしゃっと派手に転んで、地面にダイブしてしまった。
シーンと静まりかえる場。
うう、痛い。
足すりむいた……最悪。
てゆーか、さすがの私も恥ずかしいです。
バス停を目の前にして、よろよろと立ち上がる。
イケメンさんは私のちょっと後ろにいたけど、何も言わなかった。
案の定、膝は痛々しく擦りむけていて、血が出ていた。
高校生にもなって……はぁ。
なんだ今日は。
厄日か。
眠いし、痴漢現場には遭遇するし、イケメンの前で転ぶし。
悪い事ばっか起きてるんですけど。
パンパンと、スカートについた砂を払う。
すると、イケメンさんが不安そうな目をして、私の前へ歩いてきた。
大丈夫です、大丈夫です。
イケメンに心配されるという人生の一大イベントに、思わず痛みを忘れた。
だけどそれもつかの間、一気に恥ずかしくなってきた。
ドーンと、でかいサイズの絆創膏を、ポーチから出して見せる。
私のなけなしの女子力が詰まったポーチだ。
ピンク。
これだけでも女子力高く見える気がする。
消毒液もバッチリ持っている私は、今無足を引きずって、バス停まで歩いた。
そして、バス停のベンチに座って、消毒をする。
イケメンさんはその様子を、黙って見ていた。
うう、恥ずかしいからあんまり見ないでください…………。
消毒を終えて、ふぅ、と息をつく。
自分の消毒とはいえ、見てるだけでも痛い。
消毒液を置いて絆創膏を手に取ると、イケメンさんが
と言ってきた。
へ?
ええっ!?
固まる私の手からスっと絆創膏を奪って、イケメンさんはベンチに座る私の前に膝を着いた。
ちょ!!
そんな!!
イケメンさんがそんなこと……!!!
アワアワとする私に構うことなく、イケメンさんはペリ、と絆創膏のカバーを剥がして行った。
ヒィ。
なんで私、名前も知らないイケメンさんに、絆創膏を貼られてるんだろう。
なかば諦めて、イケメンさんにまかせる。
真剣に私の膝下を見つめる姿に、なんだかちょっとときめいた。
…………かっこいい人だ。
顔もいい上に、痴漢野郎を積極的に撃退しに行くとは、心までイケメン。
さらりと探されるような仕草で、彼は私の膝に絆創膏を貼ってくれた。
ふと、彼が顔を上げる。
私はすっかり見惚れていて、反応するのに時間がかかってしまった。
絆創膏は貼り終えている。
私はあわてて、お礼を言おうとした。
えっ。
なんで名前、と私が思うより早く。
目の前のイケメンさんは、私を真剣な目で見つめて、言ったんだ。
と。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。