第11話

薄いサイダー
53
2022/04/18 22:43
少しだけ昔のことを思い出した気がした。
二条悟
…。
メイジー
メイジー
どーしたの?
二条悟
…っ、え?
自販機の前で俺は立っていた。


そして横にマントを羽織ったメイジーがいる。
メイジー
メイジー
飲み物買いに来たんじゃん。
メイジー
メイジー
何にするの?
いつのまにかぼーっとしていたようだ。
にしても自販機…
二条悟
まあ、サイダーにするか…。
メイジー
メイジー
さいだー?
二条悟
ああ、炭酸水のジュースのことだ。
メイジー
メイジー
えぇ…しゅわしゅわするじゃん。
二条悟
いや、まあそれが…醍醐味というか…
サイダー。


子供っぽい飲み物だけど、結構美味しかったりする。
二条悟
お前はどうすんだ?
メイジー
メイジー
私もさいだー!
二条悟
サイダーね。
100円玉を二枚入れてもう一本サイダーを買い、手渡す。
メイジー
メイジー
のの、飲んでいいかな!
二条悟
おう。
メイジー
メイジー
…飲むぞ!
ごっくんと一気に飲むメイジー。
しかし炭酸飲料をそんな一気に飲むのは
もはやアホでしかない。
メイジー
メイジー
あぎゃーー!!?
顔を赤くしてバタつくメイジー。
二条悟
ああ…一気飲みするから…。
ちょびちょびと俺はサイダーを飲みながらそいつを見る。
メイジー
メイジー
ううっ…!サイダーのばかぁぁ!!
二条悟
…馬鹿はお前だ…。
メイジー
メイジー
う、うう…ゲプっ…。
盛大にゲップをかますメイジー。
それを目の前に見た俺は少し笑う。
二条悟
…楽しそうだな。
メイジー
メイジー
何も楽しくないし!笑うな!
トントンと突いてくるメイジー。
なんだろうか。
…家族みたいだな。
兄弟みたい、だな。
サイダーをグピっと飲み、俺は歩き出した。
メイジー
メイジー
ねえ、どこ行くの?
二条悟
もう時間も遅い。早く帰って寝るぞ。
時刻は11時を過ぎている。
九
…待ちなよ青年。
二条悟
え?
声のした後ろの方を振り返ってみる。
……
手に持っていたサイダーを俺は落としてしまった。
だって仕方がない。
九
フフン…ずいぶん大きくなったね。
…その声は間違いなく。
あの人の声だったから。





_____________________________
二条悟
…姉…さん…!?
九
落ち着きなよ。
俺は衝撃のあまりそいつに近づいていた。
姉の顔に姉の匂いがして…俺は頭がこんがらがる。
二条悟
姉さんは…!
九
…うるさいよもう。
トンっと指パッチンをされる。
二条悟
…でも!
俺の知ってる姉。
それはもういない。
だってあの夜、消えたから。
九
…ごめんね。
九
……でも私はそこの人狼さんに用がある。
二条悟
…!?
人狼…。
メイジー
メイジー
…。
まさかメイジーのことがバレたのか。


いや、しっかりとマントを纏っているし、耳も隠してる。
ならどうして…!?
九
そんな顔しないでよ。
九
人狼から救ってあげるんだから。
二条悟
…え?
九
その人狼はあんたを食うつもりなんでしょ?
二条悟
ち、ちがう!
俺は真っ正面から否定する。
こいつには…姉さんには別に聞きたいことが山ほどあるが…
でも…メイジーだけは守る。
そう決めたんだ。
九
何が違うの?
なんの確証があってそう言える?
九
…あのね、「確証がないものを信じる」こと。
それは「騙される」ってことなんだよ?
二条悟
それでも…そんなん間違ってる…。
九
…残念。
…死にたがりさんなのね。
二条悟
お前は…何者なんだよ!
九
…傭兵だよ、ただのね。
二条悟
傭兵…?
俺の姉は傭兵になったのか…?
いや、こいつはそもそも俺の姉…なのか…?
根拠は俺の直感だけだ。
…それ以外何も分かんない…。
九
知ってるかな、一般人が人狼を保護するのは犯罪だよ。
九
…だから君は…
メイジー
メイジー
違う!!
その時だった。
メイジーは俺とそいつの間に割り入るかのように叫んだ。
青い目は月に反射して光る。
九
…んっ…殺すか…。
二条悟
やめろ!!
そいつは容赦無く銃を構え、引き金を引こうとする。
おれはとっさにメイジーを庇うように手を広げた。
九
…っ…もう!
九
死にたいの?!馬鹿なの!?
そいつは銃を地面に叩きつけて怒った。
九
…私はただ…救いたいだけなのに……。
メイジー
メイジー
なら…殺してよ。
九
え…?
二条悟
メ、メイジー…!?
メイジー
メイジー
ありがとう…二条さん。
パッと俺の前へと出てくるメイジー。
メイジー
メイジー
…私だって誰かを救う力ぐらいある。
メイジー
メイジー
…傭兵さん。
九
…なんだ。
メイジー
メイジー
彼は何もしてない。
何も悪くない。
メイジー
メイジー
だから彼を巻き込まないで…ください。
震える声でそう言い切るメイジー。
俺は否定したかった。


でもできなかった。
何を言えばいいのかわからなかった。
九
…そんなこと貴方に決定権はないよ。
メイジー
メイジー
ならさっさとわたしを殺せよ。
メイジー
メイジー
…さっさと殺せよ!!!
…大きな声で叫び上げるメイジー。
場の空気はその声で圧倒され一変する。
九
…だったら楽ですね。
死んでください。
メイジー
メイジー
…私は嘘をついてない。
メイジー
メイジー
だから殺される覚悟もあるし死んでも構わない。
メイジー
メイジー
悪いのは私だけでいい。
死ぬのは私だけでいい。
二条悟
…ダメだろ…そんなの…!!
俺は否定する。
そんなの嫌だ。



俺の覚悟はなんだよ。



こいつを守るって決めたのに!!
どうして…何もできないんだ。
九
……ちぇっ…。
九
殺し辛いこと言わないでよね。
彼女は構えていたショットガンを背中に背負い直した。
…そして少し笑った。


微笑むように笑った。


その顔はやっぱり姉さんだった。
メイジー
メイジー
殺すならはやく…
九
…殺すわけない。
二条悟
…姉さん…!
九
姉さん呼びするな…。
チッと舌打ちをする傭兵。
九
全く…変わんないねアンタは。
二条悟
姉さん…。
九
はいはい、じゃあね。
手を振る傭兵は去っていこうとする。
メイジー
メイジー
ちょっと待ってよ!
九
…なに、殺されたい?
メイジー
メイジー
違う、貴方は…。
九
九
…そこのクソガキにでも聞いとけー。
俺を指差してそう言う傭兵。
二条悟
誰がクソガキだ…。
メイジー
メイジー
二条さん…。
二条悟
あいつは俺の姉だよ。名前はココノ。
メイジー
メイジー
ココノ?
九
…九って書いてココノ。
九はそれだけ言って去っていった。
メイジー
メイジー
…変な人…。
二条悟
…まあな。
…生きてたんだ、姉さん。
俺はずっと会いたかった。
でも会えない。
そんな現実が俺を覆っていた。
…そんな日々は終わり、今日姉さんと会った。
…彼女は随分と変わっていた。
冷酷に、冷徹になっていたのだ。


傭兵になったのは驚きでしかない。






でもやっぱり姉さんだって。
「救いたい」だとか。
そこは全然変わってない。
そうだった。
姉さんはずっと「誰かを救う」ことばっかり考えてたんだ。
…あの日いなくなった時も。

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