少しだけ昔のことを思い出した気がした。
自販機の前で俺は立っていた。
そして横にマントを羽織ったメイジーがいる。
いつのまにかぼーっとしていたようだ。
にしても自販機…
サイダー。
子供っぽい飲み物だけど、結構美味しかったりする。
100円玉を二枚入れてもう一本サイダーを買い、手渡す。
ごっくんと一気に飲むメイジー。
しかし炭酸飲料をそんな一気に飲むのは
もはやアホでしかない。
顔を赤くしてバタつくメイジー。
ちょびちょびと俺はサイダーを飲みながらそいつを見る。
盛大にゲップをかますメイジー。
それを目の前に見た俺は少し笑う。
トントンと突いてくるメイジー。
なんだろうか。
…家族みたいだな。
兄弟みたい、だな。
サイダーをグピっと飲み、俺は歩き出した。
時刻は11時を過ぎている。
…
声のした後ろの方を振り返ってみる。
……
手に持っていたサイダーを俺は落としてしまった。
だって仕方がない。
…その声は間違いなく。
あの人の声だったから。
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俺は衝撃のあまりそいつに近づいていた。
姉の顔に姉の匂いがして…俺は頭がこんがらがる。
トンっと指パッチンをされる。
俺の知ってる姉。
それはもういない。
だってあの夜、消えたから。
人狼…。
まさかメイジーのことがバレたのか。
いや、しっかりとマントを纏っているし、耳も隠してる。
ならどうして…!?
俺は真っ正面から否定する。
こいつには…姉さんには別に聞きたいことが山ほどあるが…
でも…メイジーだけは守る。
そう決めたんだ。
俺の姉は傭兵になったのか…?
いや、こいつはそもそも俺の姉…なのか…?
根拠は俺の直感だけだ。
…それ以外何も分かんない…。
その時だった。
メイジーは俺とそいつの間に割り入るかのように叫んだ。
青い目は月に反射して光る。
そいつは容赦無く銃を構え、引き金を引こうとする。
おれはとっさにメイジーを庇うように手を広げた。
そいつは銃を地面に叩きつけて怒った。
パッと俺の前へと出てくるメイジー。
震える声でそう言い切るメイジー。
俺は否定したかった。
でもできなかった。
何を言えばいいのかわからなかった。
…大きな声で叫び上げるメイジー。
場の空気はその声で圧倒され一変する。
俺は否定する。
そんなの嫌だ。
俺の覚悟はなんだよ。
こいつを守るって決めたのに!!
どうして…何もできないんだ。
彼女は構えていたショットガンを背中に背負い直した。
…そして少し笑った。
微笑むように笑った。
その顔はやっぱり姉さんだった。
チッと舌打ちをする傭兵。
手を振る傭兵は去っていこうとする。
俺を指差してそう言う傭兵。
九はそれだけ言って去っていった。
…生きてたんだ、姉さん。
俺はずっと会いたかった。
でも会えない。
そんな現実が俺を覆っていた。
…そんな日々は終わり、今日姉さんと会った。
…彼女は随分と変わっていた。
冷酷に、冷徹になっていたのだ。
傭兵になったのは驚きでしかない。
でもやっぱり姉さんだって。
「救いたい」だとか。
そこは全然変わってない。
そうだった。
姉さんはずっと「誰かを救う」ことばっかり考えてたんだ。
…あの日いなくなった時も。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。