いつも読んでくださってありがとうございます。
また少しお知らせさせてください。
今回は三枝さんとナキのお話です。
それでは甘くて遠回りな本編をお楽しみください。
失礼します。
【横田波瑠】
気がついて目を開けた。鈍い頭痛に顔を顰める。
思考も視界もはっきりしないまま、落ち着きたい私とは裏腹に息を荒げる体。
いつも寝る前にサイドテーブルに用意しているはずのタンブラーに手を伸ばす。が、私の手は空を切った。
用意しなかったっけ?
あれ、そもそも私、いつ帰ってきた?どうやって寝た?
カフェから帰ってきた記憶がない。
髪はギシギシ。体もベタベタ。でもメイクは落としてあるし、服はいつものルームウェア。
体を起こそうと試みたけど頭がぐわんぐわんと揺れてベッドに引き戻された。
あ、これダメかも。
ぼやっと須崎が見える気がする。夢?
夢にしては体の辛さが尋常じゃないけど。
いや、きっと夢。須崎が家にいるなんて。
夢なんだから少しくらい甘えたっていいわよね?
息を吐いたところで辛さが和らぐわけでもないのだけど、どうにかしてこの体に篭った熱を吐き出してしまいたかった。
気がつけば須崎を呼び止めていた。
そう、夢なんだから。
思ったより素直に感情が出てびっくりした。現実で出ちゃわないように気をつけないと。
でも、どうせ夢なら好きだと伝えられたら良かったのに。それだけは言えないみたいだった。
夢から覚めて、体を起こすと汗で濡れたルームウェアが肌に張り付いていた。静かな部屋で布団が擦れる音だけがやけに響いている。
どうやら体調悪くて倒れてしまったのは夢じゃなかったらしい。
多少頭が痛いものの、起き上がれるし息も荒れてない。
水を飲もうとサイドテーブルにあるコップを取って残っていた水を飲み干す。
カーテンを開けると光が差し込んだ。
バスの時間は七時四十分。出勤は八時。起きるにはちょうどいい時間。
シャワー浴びて髪乾かして、いつも通り下の方で結んでくるりんぱ。まだ本調子ではないから朝食はいらない。
プルルルル……プルルルル……
合鍵なら奏多の家の中のはず。とすると、三枝が持っている奏多の家の合鍵を使わなきゃいけない。
三枝が愛してやまない奏多の家に私の家の合鍵があると知ったらいい気はしないだろう。
電話口の声色が変わる。夢で聞いた落ち着いた須崎じゃなくて、切羽詰まったような苦しそうな声。
夢の中で須崎に介抱されてたなんて言えないけど。
ポストに入っていた合鍵を回収して、私は家を出た。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!