今日は何をしようか、なんて綴と話しながら、私たちは手を繋いで行くあてもなく町を歩いていた。
目的地もやることもない暇な時間。だけど、綴と2人で町を歩くだけで、今までとは違う景色が見れて楽しい。
最近は綴の妖怪との関わり方も変わり、人が近くにいないのを見計らってたくさん彼らと遊んでいた。それでも、やっぱりビニール傘は持っているが、そこは仕方ないところなんだと思う。
先日、綴に懐いていた化け狸も、毎日のように彼の首に巻き付いている。綴は、さすがに暑い、と愚痴をこぼしていたけど、その表情は満更でもなさそうで可愛い組み合わせだと思う。
無理に関わろうとしてほしいわけではないけど、綴にとっていい方向に進めばいいなと常々思っている。
ふと、道端に寝転んでいる人に似た妖怪が目に入り、私はいいことを思いついてしまった。
話しかけに行こうとした時、隣を通り過ぎた妖怪にいたずらに足を引っかけられた。
いたずらを仕掛けてきた妖怪は可笑しそうに笑みを浮かべていたが、私を受け止めようと手を構えていた。
けど、綴も突然のことに驚いたようで、彼と繋いでいた手は簡単に離れてしまった。
目の前に見えていた妖怪の手は忽然と消えてなくなり、私は手をついて地面に転んでしまう。
文句を言い放ってやろうと隣を見上げるが、そこには何もいなかった。
先程とは打って変わって、あたりを見渡しても妖怪の姿はない。誰も、何もいない景色が広がっている。
突然のことで頭が回っていない私は、変な孤独感を感じた。
綴が手を差し伸べてくれるが、その首元に化け狸は見えない。
彼の手に触れれば一瞬で辺りは騒がしくなり、隣からは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
また見上げてみれば、私を転ばせた妖怪が指を差して意地の悪い笑みを浮かべていた。
そう言われて頬に触れてみると、確かに濡れていて私自身驚いてしまう。
綴も周りの妖怪たちも私の顔を心配そうに覗いてきて、見えることに少し安心した。
綴は繋いでいない方の手に持っていたビニール傘を置き、私の涙を拭って頭を優しく撫でてくれる。
そう、私も大げさに驚いてしまった。
綴がいなければ妖怪を見ることも、触れることもできない。毎日家に帰るたびに思っていたし、ちゃんとわかっているはずだった。
文句を言い放ってやれば、また妖怪たちは笑ってくれる。
綴はまだ心配そうに私を見ているけど、大丈夫だよ、という思いで手をぎゅっと握った。
そうすれば、彼もやっと笑ってくれる。
大丈夫。
些細なことをきっかけに、私の不安はどんどんと膨れ上がっていた。
妖怪たちと綴が話しているのをボーっと見ていると、彼は急に私を見て耳をほんのりと赤く染める。
夏はまだ終わらない。
だから、まだ、今は大丈夫。
☆
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。