青空には雲ひとつなく、太陽が誇らしげに輝いている。
私は待ち合わせの木陰へ向かって足を踏み出すが、その足取りはどうしても重くなってしまう。
綴の姿が見えてきた時、彼はビニール傘を差しているにもかかわらず、足元を見つめて楽しそうに話していた。
そう、今日は夏休み最終日、綴が東京に帰ってしまう日だ。
綴はおもむろにビニール傘をたたむと、それを私の手に掴ませる。
綴はいつものように手を差し伸べてくれたけど、私はそれをとらずに歩きはじめる。
そう強がりを言ったけど、本当は寂しい町の景色にもう心が折れていた。
私の顔を覗き込む綴は意地の悪い笑みを浮かべて、わざとらしく寂しそうな顔をして見せた。
顔に集まる熱を強い日差しのせいにしようと、私は空を仰いだ。
そんな風に思うと視線はどんどん下に落ちていき、私は道を見つめながら歩いていた。
そう言った綴の瞳からは強い意志を感じ、私の顔はそれだけで綻んだ。
電車までの道のりは長いはずなのに、最後の時間はあっという間に終わりを迎えようとしていた。
駅のホームに辿り着けば、すぐに電車が来ると知らせるベルが鳴り響く。
ふーん、と口をとがらせる綴は少し可愛くて、私は思わず笑ってしまう。
そのとき、急に手を引かれ、私はバランスを崩して綴の腕の中に倒れ込んでしまう。
綴の背中に手を回すと、周りから彼以外のぬくもりを感じる。
囲むように妖怪たちはそこにいて、すり寄っていたり、頭を撫でてくれたり。そこに言葉なんて1つもなかったけど、私たちはしばしの別れを告げていつかの再会を約束をした。
綴は電車に乗り、私はそれが見えなくなるまで手を振り続けた。
晴天の下、私は綴にもらったビニール傘を差して家路についた。吹き抜ける風と、今は見えない大切な友達と一緒に。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。