第19話

🧊 ⅩⅨ

2,396

2024/01/04 13:06

……昨日ぶりだね

ヒョンジン、くん…なんで、






僕が呆気に取られて彼を呆然と見つめていると、僕を助けてくれたお兄さんに半ば強引に腕を引っ張られた。

死にたくなかったら早く乗れっ！

の、乗るってあのバイクにですか！？

当たり前だろ！ジニこの子が振り落とされないように抱きしめとけよ

は、はぁ！？なんで俺が、

時間ないから早くしろほら！






お兄さんに抱えられて強制的にヒョンジンくんの足の上にのせられる。




まって、これはいろいろと問題があるんじゃ…

っ…、






案の定ヒョンジンくんの表情は固まっている。




たぶんあの様子だと、ヒョンジンくんは僕のことが苦手だと思うのに。




でもそのことをお兄さんが知るはずもなかったので仕方がないと言えば仕方がないのだけど。

ご、ごめんね。迷惑、かけちゃって…

……

でも僕、あの人たちには君のこと一言も、

……迷惑じゃない

え？

迷惑じゃ、ないから。……勝手にどっか行かないでよ






聞き間違いかと思った。




あの無愛想で僕に一切興味無さそうだったヒョンジンくんが、今なんて…

おいお前らそういう話は着いたら好きなだけしていいからっ！

今はマジで振り落とされないように集中しろ






お兄さんの言葉にヒョンジンくんは気まずそうに「あーはいはい」と適当に相槌をうちながら僕のお腹に腕を回してぎゅっと固定してきた。




な、なんかこれ、無性にドキドキする…！




そうしている間にお兄さんはバイクのハンドルを切ってものすごい速さで走らせた。




バイク自体に乗ったことがない僕は思わず前にあるお兄さんの背中にしがみついてしまう。

っ！

うおっ！？ちょ、運転しにくいんだけど…！

だだだだって、掴まってないと落ちそうで…っ

ジニッ！！お友達怖がってるから安心させてあげて！！

だからなんで俺…






なんて言いながらもちゃんと僕の体を包み込んで落ちないように固定してくれるヒョンジンくん。




優しいんだ、本当に。




僕はもっと君のことを知りたいよ。




君はどうしてあの人たちに狙われているのか、どうして優しいのに素っ気ない振りをするのか。




知りたいけど、僕はまだそれを教えられるくらいの存在にはなれてないだろうから。

ヒョンジンくん、僕あの人達に言われたんだ

…？

『あいつのことを話せ。話すまで拷問してやる』って。でも僕ね、君をあの人達に売ってまで助かりたいとは思わなかった

なんで？俺の事話しちゃえばそんな泣くくらい怖い思いしないで済んだんじゃない？






ヒョンジンくんの言葉に僕は慌てて目元を拭う。




あの時のことを思い出して勝手に体が震えていた。

……なんでそんなに俺を助けようとするのかわかんない






ヒョンジンくんはジャージのフードを引っ張って深く被った。




表情は見えないけれど、きっと本当に僕の行動の意味がわからなくて困惑しているのだと思う。




やっぱり、この人には大切なことはちゃんと言葉にして伝えないと駄目だな。




僕はそう思って彼のフードを取って無理やり目を合わせた。




驚いて目を見開いている彼と視線が重なり合う。

君の友達だから

とも、だち…？

僕が痛い思いをすることで君を助けることができるなら、僕はそれを受け入れる

君を助けたのは君にとって迷惑だったかもしれないけど…でもあのまま助けないで見殺しにするなんて僕の中では正しいことじゃない

僕は、僕が正しいと思ったことをやり抜くって決めてるんだ

……






ヒョンジンくんはしばらく僕を呆然と見つめていたが、やがて彼の細い指が僕の頬に伸びてきて、

狂ってるね






と言いながらそっと優しく撫でてきた。

でも俺、君のことちょっと興味ある、かも

こんなに可愛い顔してそんな狂ってること言うとは思わなかったよㅎ






彼は笑った。




また、彼の笑顔を見ることができた。




嬉しくて僕に興味があると言ってくれた彼にハグしたかったけど、ここはぐっと堪えなきゃ。




彼はスキンシップ苦手みたいだから。

狂ってるってなんかやだなぁㅎ それに、か、可愛いって…君から言われるなんて思ってなかったよ

……考えたんだけど

？何を？

君、あの時怒ってカミつれて出てったでしょ

あ…

何で怒ってるのか自分で考えろって言ったじゃん。だから、考えたんだけど






そういえば家を出る前そんな事を言った気がする。




正直なんで怒ってたのか全然覚えてないんだけど。




まさかちゃんと考えてくれてたの…？意外と律儀だったんだな…

俺がちゃんと会話しなかったから、でしょ？だから君は呆れて出ていった。違う？






あぁ、そういえばそうだったな。




僕が何言っても素っ気なかったヒョンジンくんにちょっとだけ腹を立てちゃったんだっけ。

俺も大人げなかったと、思う。だから……ごめん






あのヒョンジンくんが素直に謝っていることに衝撃だ。




でもこれって、ちょっとは心を開いてくれた…って思ってもいいのかな？

僕も、勝手に飛び出しちゃってごめんね

……うん






僕はただの大学生だったのに、君と出会ってから何だかとんでもない事に巻き込まれてしまった気がする。




でも、関係を絶ちたいとは思わない不思議な人。

（むしろもっと仲良くなりたいんだもん。僕が変なのかな…？）

……何？

なんでもない！それより、そのジャージ似合ってるねㅎ

嬉しくないんだけど






うーん。





彼と仲良くなるにはまだまだ時間が必要かな。

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第20話 🧊 ⅩⅩ

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