松倉side
元太はずっと俺のヒーローだ。
頼もしくて、カッコ良くて、強い。
そんな憧れの人。
俺のいないとき、勝手に携帯をいじられていた俺を助けてくれた。
元太は元々、オレンジのサッカーユニフォームを着て無邪気に踊っていた黒髪センターさらさら分けヘアの爽やか童顔少年、として俺の頭のなかにインプットされていた。
そんな無邪気な子供は、先輩相手にも悪いことは悪いとガツンといえる、正義のヒーロー。
衝撃的な会話のキッカケだったけど、そこから俺らの、松松の運命の歯車はまわり始めた。
何気なく元太が近くにいて、シンメとしてニコイチになることが多くなっていった。
まだその頃は、お互いにまだまだガキでぎすぎすした雰囲気になったり、喧嘩して2ヶ月間口を聞かなかったり。
だけど、元太と離れて出演した堂本光一くんの主演舞台『Endless SHOCK』、元太と離れて元太の大切さや偉大さに気づかされた。
俺にはこの人がいないとダメなんだ、最高のライバルで最高の親友なんだ、と心が揺さぶられた。
会えないけれど、連絡はかかさず。
離れていた間も、励まし合って、刺激し合った。
約一年後、久しぶりに松松の現場があった。
お互いに成長していて、自然と絆も友情も深まっていたことを、身体全身で感じることができた。
更にまた約一年後、松田元太、松倉海斗はTravis Japanに加入することが決定。
トラジャのメンバーたちが歓迎してくれたことも、元太と同じグループで活動できることも、全てが嬉しかった。
それと同じくらい、不安な気持ちもあった。
そんな時期を支えてくれたのは元太やメンバーたち。
元太がいてくれたからこそ、今の自分があると思ってる。
だけど、この12年来の友情の変化に気づくのは、あまりにも遅すぎた。
元太のことを、好きになった。
こんなこと、誰にもいえず自分でも自分のことを疑った。
でも、これまで一緒に過ごしてきた時間を思い返せば、なんとなく腑におちた。
日々、元太に対する気持ちは募るばかり。
俺の大事な居場所を、友達を失わないためにも、元太を好きな気持ちを隠している。
好きだから、俺の勝手な気持ちで元太の笑顔をぶち壊したくない。
…それも、俺のエゴなのかもしれない。
今日は雑誌の撮影日。
数日前、4月期のドラマ、東京タワーに元太が出演することが解禁されたから、話題はそれでもちきり。
元太のドラマ出演の話は知ってたけど、世に解禁されたから、みんなわいわい盛り上がっている。
元太にお芝居の仕事がきた、って聞いてすごく嬉しかった。
しかも俺たちの大先輩が演じてた役。
准一くんと潤くんの役を廉と元太が、って聞いて元太すげぇ、って。
けど、内容が内容だからちょっと心臓がどき、とした。
解禁されたティザー観て、元太の色っぽさにやられた。
MEGUMIさんのお芝居もすごいんだけど、とにかく元太がえろい。
“元太”じゃなくて、“禁断の恋に憧れる大原耕二”だった。
今まで演じてきたゼイチョーの増野くんでも、結婚予定日の結城くんでも、松田元太でもない、大原耕二。
結婚予定日ですら、観るのビビってクッション握りつぶしながら観てたのに…
閑也に肩を揺らされて、我に返った。
やべ、元太のこと考えてたら…つい。
元太が俺のこと名前で呼ぶときは、なんとなく呼びたくなったときか、ほんとに心配してるとき。
他のメンバーたちにも心配かけちゃったし…このこと、考えるのやめよ。
もちろん、廉も板谷さんもMEGUMIさんもすっごいすてき。
色っぽくて、表情がどこか切なくて…
なんだけど、そうなんだけど、とにかく元太がやばくて。
好きな人のあんなえろい顔観れないし、あのドラマ際どいし。
結婚予定日であんなに悶えてたのが嘘みたいなくらい。
まだ俺のなかで消化しきれてない結婚予定日。
DVDも買った、買ったは良いけどまたあのどきどきを経験するのは怖くて観れてない。
普通の恋愛ドラマを見るのとは違うどきどき。
…はぁ、またクッション握りつぶしながら観るか。
~
雑誌撮影後、元太に誘われた。
別に断る理由はないからそのまま元太の家に行くことに。
元太の家に服とか下着とか色々置いてあるし、明日はオフだし。
みんなも飲みに行くみたいで、俺と元太は焼き鳥を買って元太の家に直行した。
あ、もちろんお酒も。
お酒は筋肉に影響しちゃうから、筋トレはおやすみ。
元太ん家に遊びに来ること多すぎて、いつ泊まっても良いように部屋着とパジャマと下着が常備されている。
部屋着に着替え、テレビの前にあるローテーブルに腰掛けて焼き鳥を開封。
元太はというと、さっきコンビニでお酒買ってきたのに家にあるお酒を手に小皿をもってきた。
状況が飲み込めていない俺を差し置いて、元太はテレビを操作する。
録画一覧から家政夫のミタゾノ4話を再生した。
…これ、俺が出てる回なんだけど。
好意に気付かない鈍感な魚屋さんより、未解決事件の被害者兄の方が、まだ恥ずかしさは薄らぐ。
だって、ラブシーンを好きな人に観られるとかまじで恥ずかしい。
…俺のため、なんだ。
そういう優しさが悪いんだよ、もっと好きになっちゃう。
好き、でいちゃダメなのに。
恋愛的に見たら、ダメなのに。
どんどん好きが増してしまう。
なんか元太の顔見れなくて、自分の気持ちを抑えるために、近くにあったクッションに顔を埋めた。
元太に焼き鳥を串から外してもらって、ビール片手に自分のラブシーンを観る。
焼き鳥串から外すの苦手なんだよね、トークィーンズ観てもらったらわかるけど。
俺らの仲を壊したくないから、はっきりとしたアプローチはしたことない。
でも、いっぱい優しくして、いっぱい勘違いさせる元太も、悪い男だよ。
元太に外してもらった焼き鳥をちまちま食べながら、刑事七人、ゼイチョーって元太の家にあったドラマを一気観。
次は結婚予定日だねぇ、って言われて、持ってたクッションをぎゅっ、と握って覚悟していると、元太の動きが止まった。
やばい、これ悪い酔い方してる……
とろんとろんになった目をしながらふふふ、って笑いながら俺の上に被さった。
そのままソファーの側に押し倒された。
からん、と足に缶がぶつかってやっと気付いた。
…こいつ、めちゃめちゃ飲んでる。
悪酔いしている元太の耳には俺の声なんか聞こえていなかった。
俺よりも体格の大きい、鍛えてる体はびくともしなかった。
徐々に元太が雄の顔をし始めて、唇が触れた。
どこか切ない表情をして、元太は起き上がった。
俺、今、元太にキスされた……
全然意味が分からなくて、嬉しいけど、なんで?って気持ちが強くって、複雑な気持ち。
当の本人は眠いのかぽわぽわして座っている。
なんだかいたたまれなくなって、台所でしゃがみこんだ。
時計を確認すると、まだ終電が残っていた。
元太にコップにいれた水を渡すと、部屋着を脱いで今日着てきた服に着替えた。
ハンガーにかけていたジャケットを着て、俺は元太の家を出た。
がちゃ、とオートロックでドアが閉まったことを確認し、最寄り駅に向かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。