そう言って微笑みをうかべる女の人は、近くで見るとさらにキレイ。
だけど、化粧が濃く、鼻をつく香水の香りもきついせいか、派手な印象も受ける。
この学校は学年によって男子はネクタイ、女子はリボンの色が違うんだ。
私たち1年生は赤色のネクタイとリボン。
目の前にいる女の人は、青色のリボンだった。
ということは、2年生の先輩だ!
先輩だなんて、なんだか緊張しちゃう。
私は言われた通り、先輩のあとを歩いていく。
初対面の私に、なんの用だろう?
想像もつかないなぁ。
ちょっと不安になりながらも首をひねっていると、いつの間にか体育館裏に来ていた。
あれれ?
いつの間にかこんなところまで来ちゃった。
ここってあんまり人通らないし、ちょっと怖いんだよなぁ…………。
そんなことを考えていると、不意に前を向いて歩いていた先輩が足を止めた。
腕を組んで、こちらに背を向けたまま、先輩がそれまでの静寂を切り裂いた。
突然の言葉に、思わず言葉を失う私。
なにか言おうと思うのに、喉がぎゅっと締め付けられてしまったように、言葉が出てこない。
なんでだろう。
なんで、胸がキリキリって痛いの?
先輩がそう声を上げ、キッとこちらを振り返った。
その顔は、さっきまでの穏やかな表情じゃない。
すべての憎悪を私に向けている、そんな表情だ。
ちがう……。この先輩はなにか勘違いしているんだ。
って否定したいのに、声が出てくれない。
先輩はキッと睨みつけるように私に近づき、耳元に口を寄せ、いちだんと低くした声で囁く。
フンと鼻で笑う先輩。
私は思わずぐっと拳を握りしめていた。
たしかに私は、昔の與くんのことを知らない。
だけど…………先輩の言葉が引っかかるの。
先輩よりも、與くんと過ごした時間は遥かに短い。
だけど、私が知ってる與くんは、先輩が言うような"わるい男"なんかじゃないってそう言いきれるから。
とっても怖いけど、私は精一杯の声を張り上げた。
みるみるうちに、怒りで赤くなっていく先輩の顔。
だけど、ここで引いちゃダメだ。
さっきの言葉取り消してもらうまでは。
そう叫んで、先輩は目を吊り上げたまま、近くにおいてあったバケツを持ち上げた。
そのバケツを見て、ハッとした。
『園芸部』と書かれたバケツの中には、たんまりと水が入っていて……。
先輩がバケツを私に向けて振りかざした。
ダメ……、濡れちゃう…………っ。
──助けて、與くん…………っ。
ぎゅっと目を閉じた瞬間、なぜか與くんの顔が浮かんだ。
次の瞬間──────
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。