試合終了の合図が鳴る
今日の為に私は生きてきた。
試験に受かるのは上位三十名、それに対し応募者は百を超える、倍率三倍のこの試験に女の私が受かる可能性は低い
そんな事はこの部隊を目指し始めた時から分かっている事だ、結果発表に怯えてなんていられない
そう言うと副隊長は入軍希望者のリストを取り出した
一人、また一人と名前が呼ばれる
もう何人呼ばれた?あと何枠残ってる?分からない
名前を呼ばれた者達は大きく、とても誇らしげに返事をする、それが羨ましくて、憎らしくて、そんな自分が嫌になる
そう言うと副隊長はリストに視線を落とす
お願いだから、その声で私の名前を呼んでほしい、貴方に選ばれる為だけに今日まで生きてきた、希望だった
結果に怯えていられないって思ってた、いや、きっと受かってるだろうって自信があった
でも枠が最後の一つになった今、そんな慢心はどこへやら、足の震えが止まらない、呼吸の仕方さえ忘れそうだ
そこからの記憶は無かった
聞き間違えであれと願った、数え間違えであれと祈った
でも現実は甘くなかった。副隊長は最後の一人を呼んだ後、入軍希望者が書かれたリストを机の上に置いて別の話を始める。その行動は試験の結果が出た事を表していた
あれほど再会を待ち望んだトントンさんが目の前で話しているというのに、全てが右から左へ抜けていく
きっと凄く大切な話をしていると思う、来年の入軍試験に役立つような事も沢山、だからちゃんと正気を保たないと
泣くのなんて後でいくらでもできるでしょう
そう自分に言い聞かせ、やっとの思いで話に耳を傾ける
“覚悟がある奴だけ残れ”
こんな脅しを聞いて怖い、もう帰りたいと思う奴がこの部隊を志望する訳が無い
そう思っていたのに、顔を歪めている人物が数名
その言葉に皆の視線が動く
この国の人間は貴族や王族以外に性を持たない、上の名前が与えられるのは高貴な人間だけという考えなのだ
そして今声を上げた彼と横にいる二人の男、彼らには確か性があった、つまり...金持ちのボンボンだ
いつ死ぬか分からない軍人を志望させる家だ、貴族家と言っても小さな家なのだろう。倍率が高い第一部隊に息子を入れて名声を得ようと...くだらない
副隊長の圧に男達は息を呑む
止められたらどうしよう、責められたらどうしようという不安が表情から読み取れる
そんな哀れな男達を見て、副隊長は溜息を零す
責めるべきなのに、そんな軽い気持ちで受けるなと注意するべきなのに、お礼を言って彼らを追い出すだけだなんて
少し不服だが彼が下した決断に異論は無い、今回の第一部隊合格者は昨年より三人減った二十七人か
そんな事を考えていると
副隊長は机の方へと手を伸ばし、口を開いた
“順位の繰り上げを行う”
その言葉に会場にいた希望者達は目を見開く、消えた希望が再び現れたのだ、こんな映画のような展開があるだろうか
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。