第28話

第弐拾伍件
40
2023/11/15 10:09
映像に対する民衆の様子が恐ろしくなってそっと一瞥すると、国家警察やら政府の役人やらが、何とか対応してくれているようだった。
中には驚きの余り泡を吹いて倒れている人もいて、担架で担がれて行った。


…一方当主含む魔族達は、黙って映像を見つめていた。
何を考えているのかさっぱり検討がつかない…同族が虐げられている事に対し、創造神を憎んでいるのか、単に同族を蔑んでいるのか、又は憐れんでいるのか。
_廿楽理奈@ツヅラ リナ_
廿楽理奈ツヅラ リナ
…まぁ体調が悪くなりそうな人もいそうですし、取り敢えずやめにしましょう。
今は気絶しているのですか?
_@_
『そうだな…まぁ、後もう二時間ほどすれば目が覚めるだろう』
_廿楽理奈@ツヅラ リナ_
廿楽理奈ツヅラ リナ
承知致しました。デイ様、お忙しい中ありがとうございました
_@_
『ふむ。では私はこれで───』
リン
────創造神!!!!
映像が途切れるかと思った寸前、院長の背後に座っていた凛が立ち上がり、女を怒鳴りつけた。


…ぶっちゃけてしまえば、『やっぱり』とは思った。
一般人にとっては過ごしやすい世界だとしても、魔族にとっては違う。
各当主やら部下やらは憎んでいるだろうに、公的な場で動くのは良くないと考えているのだろう…なるべく視線を向けないようにしているみたいだ。


だがまぁモニターで見た時も思ったけど、凛の場合、沸き上がる感情を上手く抑えられないタイプなんだろうなぁ、と思う。
例え見た目が大人だとしても子供っぽかったり、その逆で見た目が子供でも考え方が大人だったり……恐らく凛は前者、悠斗達は後者だ。
_@_
『…其方、私の言葉を遮るなど…身の程を知らないようだな』
_廿楽理奈@ツヅラ リナ_
廿楽理奈ツヅラ リナ
…!
その時私は、とある”違和感“に気づいた。
一週間前…ヨノミツさんのモニターに、瞳が紅色に変化した凛が一瞬だけ映っていた。

その時は私の見間違いかと思っていたが…どうやらそうじゃない。
そして私の考えを裏付けるのは、院長の表情。

相変わらず仏頂面をしているが、私の間違いで無ければ口角がほんの少し上がった気がする。
一週間前に見た時は、院長が凛の暴走を止めていたというのに。

これは果たして私の想定内に入るのか…否か。
リン
身の程を知らないのは貴様の方だ!
貴様はすぐにでも死ぬ!!そして…
聖里望來ヒジリ ミライ
止めなさい、不敬でしょう!!
全員
!?
そして────の後に、凛が何を言おうとしていたのかは分からない。

何故なら、天依くんの後ろに座っていた護衛…姉でもある聖里望來が、凛の事を取り押さえたからである。
聖里天依ヒジリ タカエ
望來お前…ッ!いつ俺が許可を出した!?
聖里望來ヒジリ ミライ
…天依、私との契約を忘れたとは言わせない。緊急時には私がやるって言ったでしょ
天依くんも、まさか望來ちゃんが飛び出すとは思っていなかったのだろう、思わず立ち上がり激昂していた。
それに対し望來ちゃんは、暴れる凛を羽交い締めにして抑えながら、冷静な声で言い放った。




………いや、これはある意味好都合だ。
まさか望來ちゃんが飛び出してくるとは思ってなかったのだろう、少々院長にも焦りが見える。
_@_
『まぁ良い、皆の衆落ち着け。今回の件は…見なかった事にしてやろう』
聖里望來ヒジリ ミライ
……感謝致します、創造神様
望來ちゃんが固い表情で頭を垂れたのを確認すると、女の映像は途切れた。


てか…


















私と声同じなんですけどね!?
これで気づかないなんてことある!?本物こっちにいますけど!?!?

まぁ確かにさ、若干声色違いますし?
私低音であっち少し高音ですし…
聖里望來ヒジリ ミライ
(……貴女が創造神だって事は分かってるよ、理奈様)
…え?



























…………え?????何これ、望來ちゃんの声???


てか何これ?脳内に話しかけに来てる?え??
魔法使えないんじゃなかったの…?
聖里望來ヒジリ ミライ
(確かに私は世間的には使えないって言われてる。まぁ実際、基礎魔法は使えないから…)
彼女は私の脳に語りかけながら凛を解放し、周りの目を気にせずに、颯爽と自らの席に戻っていく。

凛は軽く舌打ちをすると席に戻り、天依くんも望來ちゃんを睨みながら席に戻った。凛の瞳は、まだ紅色のままだった。
聖里望來ヒジリ ミライ
(だけど……“レクス”。この名前、何だか知ってるでしょ?)
望來ちゃんは席に深く座り直し、深緑色のネクタイを締め直すと瞼を開いた。

若草色の瞳の中にあるのは、独特な赤い六芒星の瞳孔。左目を眼帯と前髪で隠し、何を考えているのか分からない不思議な少女の瞳が私を見つめた。
_廿楽理奈@ツヅラ リナ_
廿楽理奈ツヅラ リナ
(…予知の神)
聖里望來ヒジリ ミライ
(そう。私は…未来と過去、考えが読める神。後、幸運な事に身体能力にも恵まれてる) 
───初耳だ。確かに創造神として『予知の神 レクス』が存在する事は理解していた。しかしその人物が、目の前の望來ちゃんだったとは思わないじゃないか…魔法は使えないって聞いてたんだから。


その代わり…と言うかなんと言うか、身体能力に関しては恵まれすぎだと思う。
コンクリートで出来た建物を素手で全壊させたとか、50mはあるビルから飛び降りて無傷だったとか、色んな噂を聞いたことがある。


もうそれが魔法って言われても、誰も疑問に思わないと思うよ。
聖里望來ヒジリ ミライ
(…だからさっきから、貴女が考えてる事も私には全部丸聞こえ。)
_廿楽理奈@ツヅラ リナ_
廿楽理奈ツヅラ リナ
(あ……)
…不味い。という事は、院長を危険視している事がとっくにバレている。

しかも、この“作戦”の内容も───
聖里望來ヒジリ ミライ
(……大丈夫、安心して。私達聖里家も、今の西薗領主は変だと思ってた。それと…)
聖里望來ヒジリ ミライ
(…そろそろ、“あの子達”が東雲領主を殺す)
_廿楽理奈@ツヅラ リナ_
廿楽理奈ツヅラ リナ
………へ?
予想もしていなかった言葉に、私が思わず肉声を出したその瞬間。







私の左隣に座っていた伊織さんの右肩から、血飛沫が上がった。

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