映像に対する民衆の様子が恐ろしくなってそっと一瞥すると、国家警察やら政府の役人やらが、何とか対応してくれているようだった。
中には驚きの余り泡を吹いて倒れている人もいて、担架で担がれて行った。
…一方当主含む魔族達は、黙って映像を見つめていた。
何を考えているのかさっぱり検討がつかない…同族が虐げられている事に対し、創造神を憎んでいるのか、単に同族を蔑んでいるのか、又は憐れんでいるのか。
映像が途切れるかと思った寸前、院長の背後に座っていた凛が立ち上がり、女を怒鳴りつけた。
…ぶっちゃけてしまえば、『やっぱり』とは思った。
一般人にとっては過ごしやすい世界だとしても、魔族にとっては違う。
各当主やら部下やらは憎んでいるだろうに、公的な場で動くのは良くないと考えているのだろう…なるべく視線を向けないようにしているみたいだ。
だがまぁモニターで見た時も思ったけど、凛の場合、沸き上がる感情を上手く抑えられないタイプなんだろうなぁ、と思う。
例え見た目が大人だとしても子供っぽかったり、その逆で見た目が子供でも考え方が大人だったり……恐らく凛は前者、悠斗達は後者だ。
その時私は、とある”違和感“に気づいた。
一週間前…ヨノミツさんのモニターに、瞳が紅色に変化した凛が一瞬だけ映っていた。
その時は私の見間違いかと思っていたが…どうやらそうじゃない。
そして私の考えを裏付けるのは、院長の表情。
相変わらず仏頂面をしているが、私の間違いで無ければ口角がほんの少し上がった気がする。
一週間前に見た時は、院長が凛の暴走を止めていたというのに。
これは果たして私の想定内に入るのか…否か。
そして────の後に、凛が何を言おうとしていたのかは分からない。
何故なら、天依くんの後ろに座っていた護衛…姉でもある聖里望來が、凛の事を取り押さえたからである。
天依くんも、まさか望來ちゃんが飛び出すとは思っていなかったのだろう、思わず立ち上がり激昂していた。
それに対し望來ちゃんは、暴れる凛を羽交い締めにして抑えながら、冷静な声で言い放った。
………いや、これはある意味好都合だ。
まさか望來ちゃんが飛び出してくるとは思ってなかったのだろう、少々院長にも焦りが見える。
望來ちゃんが固い表情で頭を垂れたのを確認すると、女の映像は途切れた。
てか…
私と声同じなんですけどね!?
これで気づかないなんてことある!?本物こっちにいますけど!?!?
まぁ確かにさ、若干声色違いますし?
私低音であっち少し高音ですし…
…え?
…………え?????何これ、望來ちゃんの声???
てか何これ?脳内に話しかけに来てる?え??
魔法使えないんじゃなかったの…?
彼女は私の脳に語りかけながら凛を解放し、周りの目を気にせずに、颯爽と自らの席に戻っていく。
凛は軽く舌打ちをすると席に戻り、天依くんも望來ちゃんを睨みながら席に戻った。凛の瞳は、まだ紅色のままだった。
望來ちゃんは席に深く座り直し、深緑色のネクタイを締め直すと瞼を開いた。
若草色の瞳の中にあるのは、独特な赤い六芒星の瞳孔。左目を眼帯と前髪で隠し、何を考えているのか分からない不思議な少女の瞳が私を見つめた。
───初耳だ。確かに創造神として『予知の神 レクス』が存在する事は理解していた。しかしその人物が、目の前の望來ちゃんだったとは思わないじゃないか…魔法は使えないって聞いてたんだから。
その代わり…と言うかなんと言うか、身体能力に関しては恵まれすぎだと思う。
コンクリートで出来た建物を素手で全壊させたとか、50mはあるビルから飛び降りて無傷だったとか、色んな噂を聞いたことがある。
もうそれが魔法って言われても、誰も疑問に思わないと思うよ。
…不味い。という事は、院長を危険視している事がとっくにバレている。
しかも、この“作戦”の内容も───
予想もしていなかった言葉に、私が思わず肉声を出したその瞬間。
私の左隣に座っていた伊織さんの右肩から、血飛沫が上がった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。