(まだ、誰もいない…。)
朝、机の中に入れてあったメモ通りに、放課後に3階の空き教室に来た。
しかし、まだ教室には誰も来ていなかった。
(差出人不明って、結局呼び出したの誰なんだろう…。)
つぼみちゃんと梨乃ちゃんには遅くなると悪いので、先に帰ってもらった。
(そもそも、もし春芽くんなのだとしたら、普通、直接3階の空き教室に呼び出すよね…。だったら誰…?)
その時、教室の扉がガラガラっと開く。
振り返ると、
(誰…?)
少し嫌味っぽい話し方に少し違和感を感じる1人の綺麗な子と、その周りに2人の子がいる。
(あの真ん中の子、どこかで見たことがあるような…。)
一音一音強調して話す彼女の話し方は完全に私に悪意がある感じだ。
(思い出した。隣のクラスの加持 麗奈(かじ れいな)さんだ。
確か、学年でもトップクラスに綺麗な子で有名な…。)
彼女とその周りの子達の態度から、私の直感が、早くこの場から立ち去った方が良いと告げている。
(は?春芽くん…?)
(そんなこと、思ってるのかもしれない…。
ずっと前に、心の声を聞いただけなのに、まだ私のことが好きだって思い込んでるのかとしれない…。)
“変な能力をもった化け物”……。
(やっぱり、私みたいな化け物が普通に過ごせるわけなかったんじゃ…。)
すっ、と差し出された手に応えることが出来ず、ただ、じっと彼を見ていた。
応えることが出来なかった手を彼が掴み、その教室を後にする。
(助けてくれたの…?)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!