" 俺は愚か者だからね " とぽつりと言い放つ。
……エーシュカは愚か者なんかじゃない。恋に、猫だから、人間だから、なんて関係ないはずだ。異性でも、同性でも、誰かを愛すことはおかしくなんてない。
私は、前にも一度言った台詞を、また口にした。
すると、エーシュカはさっきまで下を向いていた顔を上げ、じっと私の方を見つめる。
エーシュカは、ぴくりとも表情を変えることなく、ただ、私だけをその瞳に映す。
さっきまで、まるで私を見つめるだけだったのに、今は驚いた顔を見せる。……うん、そうだよね。何で知ってるんだ、ってなるよね。
でも本当に不思議と、これは確信が持てた。あの日助けてくれたのは他の誰でもない。あなたしかいない。
私は一呼吸置いて、
すると、
" ありがとう "
エーシュカはそう言った。
これこそ猫の恩返しだよ、としんみりとした空気を跳ね返すように、エーシュカは私を見て微笑む。
………え?
さっきまで緩んでいた空気が一変する。
エーシュカといれる時間は、無限ではなく、有限?
それがすぐそばまで、迫っていたというの?
" だから… " と言いかけたところでエーシュカが少し息を置く。
エーシュカはふにゃっと笑った。
…きっと、あっちの世界で、エーシュカは何か問題を抱えていたんだろう。私には少し分かり得ない話かもしれない。
でも、エーシュカのこんな顔を見たら、もっと彼の理解者になりたいと思った。もっと彼の原動力になりたいと思った。
_________ " 好きだよ "
エーシュカは、真剣な眼差しだった。
……負けない、って。二人は勝負してたのか。知らなかった。
でももう勝敗は、決まっちゃってるんだ。ずっと前から。もし、本当に勝負してたのなら、ごめんね。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。