あたしー佐倉杏子ーは、時計を見てよいしょっと立ち上がった。空はもう赤く染まって、太陽が半分沈んでいる。
その光景を見ると……時々、思い出しちまう。あの日のことを。
あの日も、ちょうどこんな空だった。
母さんや妹から流れ出た血は、その空そっくりで…
あたしの気を、更に重くさせた。
あたしは口に出して未練を断ち切ると、イスから立って部屋を出た。
そのままエレベーターを降りて、ロビーを出て…
もう、さっきのことは完全に忘れて(多分だが)いざ、魔女狩りに行くか!…と、気合を入れたその時…
いきなりどこからか声がかかって、あたしはガラにもなく大声を出してしまう。
だ、誰だよ!?
少しびびりながら後ろを振り返る。
大体のことではビビらないあたしだが(さっきのことは忘れてくれ)こいつを前にすると妙に体が強張る。
何故だろうな…
…その前に、この沈黙をどうにかしてくれ。
あたしこういう展開大嫌いなんだ。
先に沈黙を破ったのはあたしだった。
…シーン…
だからこういう展開やめろって!あたしこういう展開が………(以下略)
おお!
密かに、沈黙を破ってくれたのを感謝する。
え……、こいつ、そんなこと言うのか?
あたし、人を人とも思わないぐらいに、冷たいやつだと思ってた………
よかった、こいつが、少し親切を出来るような人間で
………………………って!何を考えてんだあたしは!!別にこれは単なる短い期間での協力関係なんだ。
ワルプルギスの夜を倒したら、こいつらともおさらばなんだ。それでいい。
なのに…
なんでこんなに、心苦しいんだ?
その言葉で…あたしはようやく現実に引き戻される。
頭の中の考えのせいで、あたしは周りの音が聞こえてなかったようだ。
何か流れでオーケーしてしまう。
あたし達はソウルジェムを取り出して辺りの魔力を二人で探りながら街を進んで行く。
ソウルジェムとは、あたし達魔法少女が契約するときに生まれる宝石。
簡単に言えば、魔法少女である証みたいなもんだ。
…………ん?
ち、ちょっと待て?今サラッと流したが、こいつ、あたしのこと………「杏子」って呼ばなかったか?
確かこいつ、いつもあたしのことはフルネームで呼んでいた筈だぞ?
ポカンとした表情でそっちを見ていたあたしに、イレギュラーが声をかける。
いきなり、イレギュラーはクスリと笑った。
へぇ…こいつ、こんな優しい表情もするんだな…………って!そうじゃない!
いきなりあたしのこと呼び捨てにしたり、笑い出したり…前までもそうだったけど、やっぱりこいつ、考えていることが全然わかんねぇ。
こいつは、さっきのような優しそうな瞳ではなく、いつもの冷酷な目に戻っていた。
…さっき優しそうに見えたのは気のせいか?
…そしてこの時、あたしは、こいつが心の中でこうつぶやいたことに気づかなかった。
なんか、懐かしむような顔になってどこかを見ていたから、あたしはたまらず声をかけた。
なんで、あたしがこいつの命令に従わないといけないんだ………という疑問が真っ先に頭に浮かんだ。
だが、次に浮かんだ考えが……、こいつは、あたしがこう言っていたことに、傷ついていたんだなって考えだった。ったく、何考えてんだか、あたしって。
自分に自分で呆れるよ。
あたしに向けて、すっと差し出された、白い手。
正直に言って、こういう時どんな行動を取ればいいのか、あまり年相応な子達と話したことのないあたしにはよくわからない。
わかることといえば、こいつがあたしに向かって、敵意を抱いていないこと。
そして、あたしを仲間として見ていることだけだった。
どう反応するか、頭を少しガリガリかいて考えた末…
あたしは、ガシッと差し出されたイレギュラー……いや、ほむらの手を握る。
TO be continued
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!