教室にひょこっと現れた男子は、目の前で繰り広げられている小学生のような言い合いに目をぱちりと瞬かせた。
それから、側で呆れ顔をする桃に聞いた。
男子――坂宮(さかみや)航(こう)は、飛び交う悪口のオンパレードなどものともせずに、笑顔であなたと拓磨の二人に話しかけた。
ニコニコと和やかに笑う航に気付き、二人はハッとなって申し訳なさそうにした。
航がきょとんとして言った。
その瞬間、あなたと拓磨は同時に顔を真っ赤にした。
二人はバッと互いを見て、背を向け合うように体を反転させ、はぁー……とため息をついた。
どこまでもすれ違う二人を眺めて、航は声を殺して可笑(おか)しそうに笑い、桃はただ呆れるのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!