第4話

すれ違い 3
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2017/12/12 14:31
よー拓磨、辞書返しに……って、あれ
教室にひょこっと現れた男子は、目の前で繰り広げられている小学生のような言い合いに目をぱちりと瞬かせた。

それから、側で呆れ顔をする桃に聞いた。
お取り込み中?
そう。口げんか
なるほどね
男子――坂宮(さかみや)航(こう)は、飛び交う悪口のオンパレードなどものともせずに、笑顔であなたと拓磨の二人に話しかけた。
よーお二人さん、わりぃけど一旦ケンカやめてくれ。拓磨、辞書さんきゅ
ニコニコと和やかに笑う航に気付き、二人はハッとなって申し訳なさそうにした。
拓磨
……おう
あなた

ごめん坂宮くん。こいつが正月ぼっちとか言ってくるからついムキになって……

拓磨
オレのせいにすんな!!元はと言えばお前が……
正月ぼっち?え、お前らまだ付き合ってなかったの?
航がきょとんとして言った。

その瞬間、あなたと拓磨は同時に顔を真っ赤にした。
あなた

っだ、誰が吉沢なんかと!!

拓磨
だっ、誰がこんな奴と!!
あなた

!!

拓磨
!!
二人はバッと互いを見て、背を向け合うように体を反転させ、はぁー……とため息をついた。
あなた

(『こんな奴』か……そっか、そうだよね。いつも悪態ついてばっかだもんね……そりゃそうだ)

拓磨
(“吉沢なんか”、ね……。やっぱオレが素直になれねーからだよな。こんな男と付き合いたいわけねぇよな……)
(コイツらマジおもしれー)
どこまでもすれ違う二人を眺めて、航は声を殺して可笑(おか)しそうに笑い、桃はただ呆れるのだった。

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