トントン。
階段をのぼるたび、微かな靴の音がひびいた。
のぼりきったあと、左へ曲がった。
わたしの教室は突き当たりにある。
廊下を進んでいる途中、合奏部の奏でる音が聴こえてきた。
ジングルベル。
あぁ、もうクリスマスの時期かぁ。
なんて考えながら教室のドアを開けた。
見慣れた人影が視界に入った。
サトシくんだった。
背を向けていた彼が振り返る。
お互いに抜けたような声をあげた。
わたしはドアに手をかけたまま、動けなかった。
誰もいないと思っていただけに、驚いた。
サトシくんも、同じだったようだ。
窓際に立ち、目を見開いて声を失っていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。