第25話

ヤンデレラの恋のゆくえ
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2023/02/17 09:47

先輩の顔が離れるまで、
何が起きたのかわからなかった。

唇にはかすかに先輩の熱だけが残っている。
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
セイラ?
おーい…大丈夫?
先輩はフリーズしている私を心配したのか
顔を覗き込んできた。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
い、今何を…!
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
何って…キス?
少し恥ずかしそうに目を逸しながら答えた。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
あの、一瞬だったので
もう一回!もう一回お願いします!
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
ちょっと待て、落ち着けって
俺だってキスなんか慣れてないし…
また今度な!

少し余裕がなさそうな顔で先輩はそう答えた。

そう言えば先輩、
恋愛に苦手意識があるって言ってたっけ。
ってことは​───
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
もしかして、
今のがファーストキスですか!?
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
そうだよ、文句あんの?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
ないです!
ただ先輩の初めてを
貰えたのがすごく嬉しくて!
ありがとうございます!
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
お礼言われると恥ずいからやめろ!
それより告白の返事…
今ので伝わった?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
あ…告白、そうでした!
それで言うと…
全然伝わってません!
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
ええ!?

だって行動だけじゃなくて、
言葉でもちゃんと言ってほしいから。

わがままで欲張りだって思われるかな?

でも、キスだけじゃ満足できない。

なんてったって私は
自他ともに認めるヤンデレなんだから。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
あの、じゃあ改めて言わせて下さい…
私は先輩が大好きです!
キスも毎日、いや毎秒したい
くらいだしずっと一緒にいたいです
先輩は、私のことどう思ってますか?

想いを込めてもう一度告白する。

先輩は私を見つめて、ふわりと微笑んだ。
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
セイラには敵わないな
俺もずっと好きだったんだ
多分初めてあの橋で会った時から
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
え!?
そんな前から!?
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
思わず声をかけたのは、
ダイヤの原石を見つけたから
じゃなくてきっと一目惚れだったんだ
最近自分の気持ちにやっと気づいたんだ
返事が遅くなってごめん
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
それで??
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
まだ言わせる気かよ!
まあ、つまりヤンデレラの
彼氏になりたいってこと!
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
本当に?!
本当にいいんですか?
私、ヤンデレですよ!!
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
毎日寝る前は電話とかしたいし
もちろん束縛は当たり前、
他の女の子とは3秒以上
目合わせちゃ駄目ですからね!?
それでもいいんですか!
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
上等じゃん
受けて立ってやるよ
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
やった…嬉しい…

これまでも先輩は、私の全てを受け止めてくれた。

きっとこれからもそうだろう。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
先輩!大好きです!
私、先輩に出会えて本当に良かった!

涙がこみ上げてきて、
前はぼんやり見えなかったけど、
先輩は大げさだよと言って笑ってくれた。



─────それから数ヶ月後。



私を取り巻く環境はガラリと変わった。

学校が終わるとすぐにスタジオに向かって、
読者モデルとしての撮影をする毎日。

多忙な日々の中でも隙をみては先輩と連絡を取り、
甘く幸せな時間を過ごした。

そして一番の変化は、ビビアンさんの助けもあり、
両親は離婚することになったことだ。



これで義理の母と姉とは正式に他人になる。
喜多川 ユア
喜多川 ユア
セイラ…私は間違ったことを
したなんて思ってない
ただ、私はあんたを…
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
…?
喜多川 ユア
喜多川 ユア
ううん、なんでもないわ

お姉ちゃんはそれ以上何も言わずに
義理の母に連れられ家を出ていった。
お父さん
ごめんなセイラ
今までは父親失格だった…
だけど、これだけは言っておく
お前の幸せがお父さんの幸せだ
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
お父さん…

今はもう、お父さんがたった1人の家族。
これからは、もう少しお互いに歩み寄れたらいいな。
お父さん
これからは親子水入らずで
頑張っていこう…
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
あ!そうだ!
お父さんに紹介したい人がいるの!
お父さん
え…



​────ピンポーン。

まるで示し合わせたようにインターホンが鳴った。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
先輩だ!

玄関を開けると、そこには少しだけ緊張した面持ちの
先輩が立っていた。
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
本当に俺を紹介するの?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
当たり前じゃないですか
先輩には“家族公認”に
なって貰います!
逃げられないように…!
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
しっかり外堀から埋めやがって…
お父さん
お、おいセイラ…誰だ?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
お父さん、紹介するね!
私の大好きな彼氏だよ
結婚を前提に付き合ってるの
お父さん
け、結婚!?

お父さんは困惑した顔のまま
その場で固まってしまった。
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
あーあ…セイラのせいだよ
あれだけまだ早いって言ったのに
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
全然早くないですよ
だってこの先、何があっても
先輩を離すつもりはありませんから!

得意げにそう言うと先輩は
満更でもない顔でため息をついて、
お父さんに自己紹介を始めた。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
絶対に、逃しませんからね

先輩の隣で小さくそう呟く。
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
逃げても追いかけてくるくせに
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
はい!
覚悟して下さい!




シンデレラはお城の王子様に恋をした。

一方ヤンデレラは、
自分を変えてくれた魔法使いに恋をした。

どちらもハッピーエンドだけれど、
ひとつだけ決定的な違いがある。

ヤンデレラはただガラスの靴を待つだけではなく
ハッピーエンドを自ら掴んだのだ。


ビビアン
ビビアン
末永くお幸せに…!


END

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