第134話

#1 せーちゃんとわたし
1,658
2021/08/28 11:29





母「あなた、今日誠也くんひとりなんだって
  
  ご飯持ってってあげて?」




『わかった!ねえママ私も一緒に作っていい?』




母「ん、いいよ、とびっきり美味しいの作ろっか!」




『うん!』









せーちゃんにはそろそろひとりの女の子としてみてもらいたい



いつまでも妹みたいな存在でいるのは嫌だ









𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄









『せーちゃん!あなたね、おおきくなったらせーちゃんとけっこんする!』




「ん、大きくなったらな」




『やくそくだよ!』









𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄









あの頃から今でもずっと私の気持ちは変わらない



せーちゃんのことが好きで、せーちゃんと結婚したいって



だけど10歳差の壁はなかなか分厚くて



私が小学校に入学したら、せーちゃんは高校生



私が中学生になったら、せーちゃんはもう社会人



そして、高校3年生になった今年



せーちゃんはプロジェクトのリーダーに抜擢されるぐらい



バリバリ働く会社員になった



私からしたらスーツ姿のせーちゃんは本当にかっこよくて



好きが増していく



けどこの前ママとせーちゃんのママが話していたのは



せーちゃんの結婚のこと









母「誠也くんもそろそろ結婚とかするのかしらね?」




末澤母「どうなんやろ、別れてへんかったら彼女は

 おるはずやねんけど、あの子最近ずっと仕事してんのよ」




母「あら、そうなの?大変ね」









って、



せーちゃんに彼女がいることぐらい知ってた



それも私が知ってるだけで3、4人とか



あのルックスだし、頭もいいし、運動もできるし、



モテないほうがおかしいぐらいだから何も言えないけど



彼女といるのを見るたび



せーちゃんは私のこと想ってくれてないんだなって



実感させられて心が苦しかった



だから今日、私は勝負に出ようと思う



ピンポンと久しぶりに鳴らしたお隣さんのインターフォン



バクバクうるさい心臓はおさまるどころか速くなる一方だ









「はーい」




『あ、あなたです』




「え、今開けるわ」









さっきまでの強気はどこへやら



緊張して声が震えてたかもしれない









「なに?どしたん?」




『あの、これ』




「ん?飯?」




『うん、せーちゃんひとりって聞いたから』




「ああ、わざわざありがとうな」




『んーん、せーちゃん最近忙しそうにしてるって

 聞いたからちゃんと食べてほしくて』




「ん、ありがとう」




『っ、』









ポンポンと頭にのった手はずっと変わらなくて



やっぱり好きだなって実感させられる



でもこれじゃ完全に私の負け









『せーちゃん』




「ん?」




『お家、あがってもいい?』




「え?」




『…これ、まだやることあるから』




「…ああ、じゃあお願いするわ、入り」




『…お邪魔します』









まだやることがあるなんて見え透いた嘘



嘘つく私も私だけど、



騙されるせーちゃんもせーちゃんだ



いくら年下の幼馴染だとしても、一応年頃の女子だ



何されたっておかしくないのに



よっぽど私のことなんて眼中にないんだろうな









「キッチン好きに使ってええから」




『うん、ありがとう、すぐ食べる?』




「食べよかな、実はお腹空いててん」




『じゃあすぐ準備するね』




「ありがとう」









『おまたせしました』




「え!うまそう!これあなたが作ったん?」




『んー、ママのお手伝いしただけ』




「ははっ、そんな謙遜せんでもええやん」




『だってほんとだし、』




「なんか大人になったな」




『え、?』




「昔やったら持ってきてくれるときに

 ''あなたがせーちゃんのためにつくったの!''

 って言うてたやん」




『…そうだっけ』




「そやで、せーちゃんなんか寂しいな〜」









せーちゃんは全然わかってない



1日でも早くせーちゃんの隣に立てるように



私が大人になろうとしてること



いただきますと食べ始めようとするせーちゃんを無視して



せーちゃんの唇に自分のそれを合わせる



初めてしたキスに胸がぎゅっと苦しくなった









「…どしたん急に」




『私もう子どもじゃないよ』




「いや、まだ子どもやん」




『選挙権持ってるし、免許も取れるし、

 結婚だってできるもん』




「ほんまにどしたんて」




『…私せーちゃんが好き』









勉強も、運動も、生徒会も、



せーちゃんを追うように頑張って



料理も、おしゃれも、メイクも、



せーちゃんに似合うように練習して



全部全部せーちゃんのために努力した



なのに全然意識してくれなくて



簡単に家にあげるなんてひどいよ










「…わかってたで、あなたの気持ち」




『じゃあどうして、』




「10個も年下の子に手出されへんやろ」




『え?』




「俺もあなたのこと好きやで」




『…彼女いっぱいいたくせに』




「だから、あなたに手出されへんかったから」




『私はずっとせーちゃんしか好きじゃないのに』




「あー言ったらこう言うな」




『だって、』




「今1番好きじゃあかんの」




『…これからもずっと好きじゃないとだめ』









ぎゅっと強く抱きつけば



高い笑い声と、わかったって優しい声



そして何回も落とされる甘いキス



どうしてもせーちゃんはやっぱり慣れてるんだな



ってモヤモヤしたものが心をざわざわさせるけど









「あなた」




『ん?』




「これからも俺だけのためにご飯作ってな」




『当たり前でしょ』









今までの空白を埋めるようにぎゅっと抱きしめ合った私たちはきっと



世界で1番幸せになれるだろう



せーちゃん、これからもずっと大好きだよ









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