そして到着したとなり町の図書館は、地元の図書館よりも倍近く広い館内だった。
ジメッとした肌に館内の冷房はとても心地よく、私は一気にホッと息をはき出す。
ということは、先生は彼女とかいないのかな?
そんなことを考えていると、先生は「あっ、あそこに座りましょうか」と指さした。
先生が指さした場所は、二段上った先にあった窓際の二人用の席だった。
大きな窓からは図書館の周りに植えられている様々な緑が見える。
私達は向かい合わせになって座り、教科書とノート、筆記用具を出した。
先生も持って来ていたリュックの中からファイルに挟んでいたプリントを数枚出す。
そういえばこの人の授業って「教える」じゃなくって「一緒に答えを導き出す」やり方だったなって思い出した。
それを理解して、シャーペンの先から芯を出しながら小テストのプリントと向かい合う。
ここのところ全く勉強から遠ざかっていたせいで、登校拒否する前に習っていた英文さえ訳せなくなっていた。
そんな緩い空気のまま、私は先生が持参してきた英和辞典とにらめっこしながら勉強を始めた。
久しぶりに頭を使う時間はとんでもなくだるかったけれど、ゆっくりと流れる時間で行う勉強は学校でする授業よりもずっとわかりやすかった。
先生のこの柔らかい独特の雰囲気のおかげかもしれないけれど。
今、それを身にしみて感じたところだ。
さすが先生をしているだけあって、教え方がうまいなぁと感心していた時だった。
先生が身を乗り出したと同時に私も同じ動きをした。
額がぶつかるくらい、私と先生の距離は近くて男の人にこんなに近寄ったのは初めてだ。
頭を上げればとんでもなく近い距離にいる先生のせいで、せっかく教えてもらった説明は全く頭に入ってこなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。