⚠︎R-18、モブ仁、微モブ杖
ドア側に押し付けられるようにして、身動きなどままならない。
そんな中、小さく仁が溜息を吐くと、杖道が問いた。
そうやって小さく返答しては、ドアに寄り掛かった。
現在時刻は19:00頃。事件解決の為に、仁と杖道は電車を乗り継ぎしていた。
けれど、見事に帰宅の時間帯に被って、こうなった、という訳だ。
ただ何も喋らずに、じっとしている事しか出来ない。
見知らぬ人の背中が眼前に広がる状態で、縮こまっていた。
すると、ふとした事に視線が留まった。
何処となく顔が蒸気していて、息が荒めな輩。
そんな輩が、杖道に触れようとしている。
そうやって数秒間で察した仁は、人混みを切り分けて、
無理矢理とでも言うようにして、其奴と杖道の間に割って入り込んだ。
杖道に取っては謎行動を行う仁。
平穏を取り繕うようにして、仁は返答をした。
そうやって訝しげな目線を見せながらも、
此方から杖道が気を逸らしたのを見計らっては、先刻の輩に声を掛ける。
小声だが、低めの声質。
でも、それに其奴が圧倒される事はなく、威勢良く発言を綴られる。
案外潔く認めるのか。意外な返答を聞いては、仁は僅かに瞳を見開いた。
そんな仁の反応を見てか、心底愉快そうな笑みが口元に浮かんだ。
何故知っている。
そんな疑問を問い掛ける暇は無く、電車が駅のホームに止まる。
問答無用。グイッ、と力強く腕を引かれる。
抗おうとするが、降車しようとしている人混みの中に紛れたら、もう遅い。
小さく悪態を呟くと同時に、背後で杖道の声が聞こえた気がした。
でも、それに振り返る隙などなく、ホームへと連れて行かれた。
ある程度の人混みを抜けた裏路地に入ったと同時に、仁は掴まれた腕を振り解く。
すると、その輩は心底愉快そうに口元を緩めた。
そうやって楽しそうに笑う輩を、仁は睨み上げるようにして目線をやる。
すると、突然のようにして唇を重ねられる。
ぢゅ、と顎を掬い上げられるようにして軽く持ち上げられる。
生暖かい舌が侵入してきて、口端から唾液が一筋溢れる。
執拗以上に粘り強いキスに、仁の息は絶え絶えで、
吐き気がしそうな勢いだった。
そんな不快感を払うべく、仁は思い切り輩の唇を噛む。
ぷつり、と音を鳴らして唇から赤々しい血液が溢れる。
じんわりと口内に鉄の味が広がる。
ぎろり、と見下される視線に、
一瞬だけ怖気付いてしまったのは、きっと気の所為ではないだろう。
そうやって顔付きを曇らす輩を見つめるばかり、
何かを企みを内に秘めているのは、丸分かりだ。
顔満面に企みの表情を浮かべる輩を見ては、仁は眉を顰める。
ニヤリ口の端を持ち上げて笑って言った。
そして、鈍い音を立てて肩を壁に押し付けられる。
突然の衝撃に、思わず仁は尻餅を付く。
手際良く剥がされる上着。心底腹立たしい。
もう逃げれまい。
そうして悟った仁は、飽々とした表情を浮かべたのだった。
薄らと頬が上気している事が、身を持って理解できる。
覚束無い足取り。視線を前にする事も出来ずに、俯いて歩いていると、急に身を支えられた。
顔を上げると、そこには杖道が。
今にも安心感が内心に込み上げてくるが、それは何とか内に隠蔽しておく。
そうやってふい、と顔を逸らして呟く仁。
付き合いが長い杖道が、仁の嘘を見逃す訳がない。
杖道は何でも仁の事を知っている。そう言ったって過言ではないだろう。
ぐい、と腕を引かれて、仁は顔を顰める。
そうやって意思を固めたような声で吐かれる。
それに今の仁にその手を振り払う程の気力などないに等しいだ。
はぁ、と一つ溜息を吐き、仁は大人しく杖道の背に着いて行った。
杖道の自宅に着くべく、突然ベッドに縫い付けられ、唇を塞がれる。
咄嗟の事に、仁が反応出来る訳がなく、ただされるがままに蹂躙される。
唇を離した同時に、口の端から唾液が溢れる。
はふはふと、過呼吸気味に肩を上下させて息を吸い込む。
案外騙したりする言葉を発せず、潔く認める仁。
それは、杖道は全てお見通しだと分かっているから、だろうか。
首筋を指され、仁は全ての記憶を思い出し、慌てて首に手を当てる。
そうだった。輩に首筋を吸われたのだった。
完全に忘れていた自分に、自己嫌悪する。
そうやって次々に事実の言葉の欠片を突き刺される。
それを最後まで聞くと、何だか仁は、自分だけが悪いような感じがして何となく癪だった。
だって、元はと言えば…
そうやって口に出してしまえば、もう仁は止まれない。
押し倒された体勢のまま、杖道の首裏に腕を回す。
低めの嬌声が、ゾクゾクと仁の脳裏を刺激する。
たったのキスだけで頬を上気させる杖道を見ていると、
輩に狙われるのも当たり前か、と改めて納得する。
何処か幼さを持った仁の微笑み方と、杖道の名を呼ぶ声。
それを見て、密かに頬が暑くなったのは、気の所為ではないだろう。
何と無防備で危なっかしい奴なのだろうか。
そうやってして杖道は仁を見つめながら思う。
何も深く考えていなさそうなアメジストの瞳。
無防備にはだけた上着とタンクトップ。端正な顔付き。
そうやって抵抗の言葉を並べる仁を黙らすようにして、仁のタンクトップを上げる。
容易に叶うそれに、杖道は微かに眉を顰める。
くるくる、と性感帯を避けるようにしてなぞる。
すると、無意識なのか。妖艶にくねる腰はどうにか抑えられないものか。
絶対に断言できる。仁は、自分ではなく他人を優先する。
例えそれが親愛なる者でも、そうでない者でも。
そんな自己犠牲をする仁を、危うく思って見守っているのは、
きっと、杖道だけではないだろう。
そうやって目尻を緩めて、妖美に揶揄いを込めて笑う仁。
此処に来てまでも、そんな余裕があるとは。
どちらからともなく、キスを重ね合う。
もしもお互いに非があるとしたら、区別がないくらいに、お互いを分からせて、溶かしたらいいのだ。
ただ緩慢と、銀の糸が虚空に引かれた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。