コンコンッ
えとはゆあんの部屋を訪れていた。
目には涙を浮かべて。
ガチャッ
ゆあんは冷たく言い放った。
普段ゆあんはこんなことを絶対に言わない。
思いもしない。
それなのに、止まらなかった。
バンッ
ゆあんの部屋に、突然どぬくが入ってきた。
目と表情には怒りが滲み出ている。
ゆあんは2人を睨みつけてから、
部屋を出ていった。
えとの体は、目に見えてわかるほど震えていた。
「嫌い」と言われたからだけではない。
それ以前に、人狼陣営にも辛いことがある
ということを理解して貰えなかったからだ。
出来ることならばえとだって、たっつんだって、
どぬくだって。
村人陣営に加担したかった。
それでも処分が怖いと思ってしまった結果がこれだ。
それが悪いことなのか。
仕方のないことなのか。
ゆあんに言われた一言で、
えとは分からなくなっていた。
震える声で、やっと絞り出した言葉。
それは普段の威勢の良さなんて1ミリも
感じさせない、弱々しい声だった。
嘘偽りもない、本心だった。
メンバーのことなんて、手にかけたくない。
それをゆあんは、理解してくれなかった。
どぬくは優しく言って、泣きじゃくるえとを慰めた。
2人が戻る頃には、
全員席に着いていたところだった。
えとがそう言ったとき、ゆあんは驚いて顔を上げた。
「みんな投票したよ」と言っていたからだ。
てっきりまだ投票していないのは自分
だけなのかと思っていたのだ。
じゃぱぱは恐る恐るゆあんを見た。
当の本人は、じゃぱぱを睨みつける。
『はい。質問ですか?』
『それは出来ません』
『不平等ですので』
えとはスピーカーに向かって、大声で言った。
『はい。質問ですか?』
自殺行為に値する。
こんなことを言うなんて。
ゆあんの言葉に、えとはコクリと頷いた。
『...本当にそれでいいんですね?』
『自分の役職を全うしない限り、
それ相応の処分を下しますよ』
『女性であろうが関係ありません』
『それでもよろしいのですか?』
『...それでは……』
グサッッ
そう名乗る男の手には、
えとの血がべっとりと付着したナイフが握られている。
じゃぱぱ、もふ、ヒロ、シヴァの4人は
ゲームマスターの前に立ちはだかり、
どぬくとゆあんはえとをその場から離れさせた。
止血しようと試みるが、深く刺さったようで、
血は止まらない。
えとの顔色はみるみる悪くなっていった。
その言葉が、ゆあんの胸に刺さった。
そして自分が言ってしまったことを
猛烈に後悔したのだ。
スッ…
えとはゆあんの頬に、手を伸ばした。
そして絞り出すように、小さい声で言った。
えとは安心したかのように微笑んで、
目を閉じた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。