雄英体育祭
1年の表彰も終わり、辺りが熱気に包まれていた頃
上空では、空間が揺らいでいた
誰も気づかないのも無理はない
それは、本当に一瞬の出来事であり、観客の熱気や歓声によって、かき消されてしまう
そしてそこから、紅白の少女が落下していたことも、誰も知らなかった
体育祭は、いよいよ幕を閉じようとしていた
大勢の人々の興奮や歓声が、会場全体を熱く盛り上げている
最後の最後で盛大なブーイングが起こり、締まらぬまま体育祭は幕を閉じようとしていた
突き刺さるような観客の視線から逃れようとしたオールマイトは、会場の屋根にポッカリと空いた穴から空へ視線を逸らした
と、オールマイトの動きがぴたりと止まる
その様子に気づいたミッドナイトも、同じように群青の空を見上げ、固まった
つられて空を見上げたマイクは、忽ち驚愕の表情に変化した
教員らの視線の先には、人影があった
遥か遠くの、上空に
マイクの声に、観客や雄英生は一斉に上を見上げた
瞬間、辺りは騒然となる
表彰を受けていた爆豪、轟
そして、そばでその様子を見守っていた緑谷ら雄英生は、まさかの事態に唖然と立ち尽くしていた
こんな事態、誰が予想できただろうか
紅白の少女と地面との距離が近づくにつれ、だんだんと騒めきが大きくなる
と、オールマイトが、少女を見上げて、ぐっと腰を落として構える
そう言うと、地上に風圧だけを残して、落下する少女の元へと一直線に飛び出す
手を伸ばし、後頭部と両脚を優しく抱えると、勢いを弱め、元いた場所へと着地した
しばらくの沈黙の後、観客席や表彰台の前から、大きな歓声と拍手が沸き起こった
安堵の溜息を漏らし、再び腰を掛けたマイクの言葉に、隣のイレイザーは、少女を見つめながら「いや…」と呟く
イレイザーの言葉通り、少女は無傷ではなかった
全身の至る所に浅い切り傷があり、意識がなく、顔色も良いとは言えない
一言伝えたオールマイトは、少女を抱えたまま、生徒達の間を縫って去っていく
と、少女の服の袖から、何かが落下した
気づいた緑谷が拾い上げ、オールマイトの方を振り返るが、既に去った後だった
かなり古く所々汚れてはいるが、丁寧に扱われていたことがわかる、古本だった
表紙には、筆記体で〝博麗秘伝書〟と書かれている
ミッドナイトやマイクが観客に落ち着くよう呼びかける中、緑谷の頭には、少女のことでいっぱいだった
その様子や呟きを、少し離れた場所にいる爆豪と轟に知られているとも気づかずに
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。