第68話

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2018/11/04 09:27
青木雪音
東京?
カフェでは、雪音が、強ばった顔で私に聞いてきた
青木雪音
東京ってどういうこと?
私はまっすぐに雪音や真緒、愛永も相づちを打つ
青木雪音
しかも、明日って
真緒
そうだよ、急すぎるよ
私は、ぺこんと頭を下げた
あなた

うん………ごめん

雪音が責めるように聞く
青木雪音
……なんで言わなかったの?
あなた

なんか、言いづらくて………

雪音は、悔しそうな顔になった
当然だと思う
私の胸にも、急に寂しさが押し寄せてきた
決意して、覚悟したはずなのに
それでも場の空気を和らげるために、私は必死に言った
あなた

ほ、ほら、でもさ。休みには帰ってくるし、雪音も東京に遊びに来ればいいんだし、ね

雪音は、はっとした様子だ
青木雪音
望は?望はどうするの?明日の事、望には言ったの?
私は苦笑する
あなた

望は………望のことは、もういいの

雪音は私をにらみつけた
青木雪音
いいのってなに!諦めるってこと!
私は苦しくなって黙り込む
真緒
まあまあまあ
真緒が雪音をなだめる
愛永も言った
愛永
雪音、あなただって、考えた結果なんだからさ
しかし雪音の怒りはおさまらない
青木雪音
考えたってなにを考えたの!自分の事しか考えてないでしょ!あたしや神ちゃんや、望の事だって、あんたは何も考えてないよ!あたしはあんただから!あなただから………!
雪音はもう、ほとんど泣きそうだ
私も同じで、瞬きもせず雪音を見つめる
雪音は立ち上がり、なおも言った
青木雪音
あんたはね、自分の気持ちからいつも逃げ出してんだ!たまには、逃げ出さないで、どこまでもどこまでも、嫌っていうくらい追いかけろよ!
私だけでなく、真緒や愛永も黙り込んだ
雪音の気持ちだけが、私には痛いほど分かる
雪音は、がんばったのだ
がんばって、がんばって………望の気持ちを手に入れることが、出来なかった
だから私に腹を立てている
私が、逃げているようにしか感じられないから
全員がしんと静まり返ったテーブルの上で、私の携帯が鳴った
メールの着信だ
画面を見て、私は思わず立ち上がる
望からのメールがトップ画面に映し出されている
小瀧望
『行くな』
震える手で、携帯を取った
小瀧望
『このままいくな』
望!
心の中でその名前を呼んだ時
再びメールが届いた
写真だ
旭山の丘でバレエを踊る私の写真だ
私は息をするのを忘れて、じっと、その写真に見入った
すると誰かが、私の背中をポンッと押した
雪音だった
私のコートとバッグを手にしている
あなた

………雪音

雪音は微笑むと、頷いた
青木雪音
行きな
私は束の間雪音を見つめ返したが、頷き、店を飛び出した

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