🐰「……これ、なに、?」
ベンチに座ったままの彼が私の目を
見つめながら聞いてくる。
抵抗しても無駄だと知った私は
手を振りほどくのを辞めた。
何も言わずに俯く私と、
何も言わずに返事を待ってくれる彼。
優しくされてる、なんて自意識なのかもしれない。
でも私には、それが優しさに感じてしまって。
人の温もりなんて久々で。
『……グスッ……うっ、ぅぅ……ッ …グスッ…』
いつの間にか、涙が溢れて止まらなくなった。
🐰「……なんで泣いてんの」
また優しく、問いかけてくれる。
でも……
『あ、なたには…関係、ない……でしよ、…』
なんて口走ってしまった。
せっかく聞いてくれたのに。
せっかく私を気にしてくれたのに。
" 助けて " って…言えなかった。
どうしても信じられなかった。
恐怖の方が強かった。
彼を信じたとしても、クラスメートと同じように
また裏切られてしまうのではないか。
そう思ってしまって……。
🐰「ふーん、あっそ」
彼は私の腕を離して目線を空に移した。
ただ何も言わずに空を見上げる彼。
その横顔が…あまりにも綺麗で見とれた。
🐰「だから、あんまジロジロ見んなよ」
ちらっとこちらを見てふっ、と笑った彼に
なんだか少し、ドキッとした。
🐰「…………名前」
『………え?』
🐰「お前の名前、なんだって聞いてるの」
『……………………』
🐰「早く答えないと襲うから」
『……、!?…は、?!』
🐰「いいから、早く」
『…………あなた…』
🐰「……あなたか………」
何故か私の名前を何度も繰り返し言いながら
嬉しそうに笑う彼。
名前を呼ばれたのなんて久々で、
胸があったかくなる。
🐰「…あなたか!じゃあな」
いきなり立ち上がるとニカッと笑い
扉の方へ足を進めようとした彼。
『……っ、…まって、!』
『あなたの、名前は?』
少しだけ遠くなった背中に叫ぶと、
彼は振り向かずに、
🐰「……ジョングク、」
小さな脳みそをフル回転させて
ジョングクという名を覚える。
………って…え、ちょっと待って…
ジョングクってまさか……、
あの、一匹狼、!?
『あの人…喋るんだ……』
そんなことを呟きながらジョングクさんの
また少し遠くなった後ろ姿を見つめていると、
ジョングクさんは扉の前で立ち止まり
こちらを振り返った。
🐰「なぁーーー!お前またここ来んのー??」
遠くなったジョングクさんが叫ぶ。
『……毎日…』
🐰「なんてーーーー???」
『たまに来ます!!!』
🐰「そっか!!じゃあまた会えるな!!」
そう言うと、ジョングクさんは
扉の中へ消えてしまった。
これで完全に屋上には私一人。
いつもなら慣れてるはずなのに、
今はなんだかすごく寂しい…。
ジョングクさんがいなくなったから?
ていうか……
ジョングクさんって、よく笑う人なんだ…。
噂では、顔はキムテヒョンに並ぶほどイケメン
なのに、いつも誰とも絡まないし、
一言も話さないって噂だ。
いつも無表情で、睨まれたら終わり。
みんなからそう思われている。
それでついたあだ名は
" 一匹狼 "
でも実際そんなことは無くて、
ジョングクさんはよく笑ってよく喋る人だった。
なんだかみんなの知らないジョングクさんを
知れて嬉しいな、なんて笑
そんなフワフワした気持ちのまま時計を見れば、
もう昼休みが終わる時間。
午後の授業のため、あの地獄のような教室に
戻らなきゃいけない…。
幸せだった昼休みが嘘みたい。
あぁ、またジョングクさんと話せたらいいな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。