第2話

328
2019/02/15 06:31
どこに行ったんだ
    教会から飛び出してみたものの、シスターがどこに行ったのか分からない。
暑い……
    俺は、ネクタイを緩める。
    あれ、俺……どうして追いかけているんだっけ……
離しなさい! あんまり、しつこいと人を呼びます!
    女性の声がした。教会の裏か。






男A
えーつれないなぁ
男B
青い目だけど、お姉さんハーフ? ねえ、その頭の外してよ
    若い男二人がシスターの腕を掴み逃げれないように囲んでいる。
おい、何してんだ
    俺は男2人とシスターの間に入る。
男A
なんだよてめぇは?
どうでもいいだろ。彼女を離せよ
    シスターを掴んでいた男の手を振り払う。
男A
カッコつけてんじゃ、ねーよっ!


ドコッ



    左頬に鈍い痛みがいきなりくる。
男B
綺麗なお顔に傷ができちゃったね
    今度は、男Bが拳を上げるがその拳が俺に届くことはなかった。
冷たっ!
    目を開けると、ホースで男二人と俺に水を掛けているシスター。
シスター
神聖な場で無粋な真似は許しません!
    シスターは容赦なく、男たちの顔に水を掛けている。
男A
お、おい!
男B
や、やめろって!
    俺は、シスターの手からホースを取り上げて男たちに投げる。
今のうちに行こう
    シスターの手を掴み走り出す。冷たくて、細くて……少しでも力を入れたら折れてしまいそうで……



    はぁ、はぁ、
ここまで、来れば大丈夫だろ
    無我夢中で俺達は近くの浜辺まで走って来た。
    シスターが息を切らしながらその場に座り込んだ。
 俺も、その隣で砂浜に寝転がる。
あいつら、何? 観光客?
シスター
分からない。いきなり来て……
    シスターがベールを脱いだ。細い絹糸のような黒い髪が現れる。
    綺麗だ、とても。
シスター
あ、見て。白いカニが歩いてる!
    彼女の白い指が指した先に白い小さなカニが歩いてた。
それが、どうしたの?
シスター
今日は、きっと良いことがある
    彼女の自信満々の表情が可愛らしくて、口元が緩んでしまう。
シスター
血が出てる……どうしよう!
    シスターの青い瞳が大きく見開かれる。白く冷たい指先で俺の唇の端に触れる。
嗚呼、これぐらい大丈夫だから
    俺は起き上がり、制服の袖で拭く。
シスター
ごめんなさい。助けてくれたのに、また濡れることに……あ、
    シスターは何かに気付いたように自分の口を押えた。
またって、もしかして覚えてた……?
    シスターは口を塞ぎながら、頷く。
 その様子が可愛くて、思わず笑ってしまう。
シスターは素直だね。大丈夫。オレンジジュースよりはましだから
シスター
でも、こんなに濡らしてしまって……
    ホースで水を掛けていた凛々しいシスターではなく、申し訳なさそうに肩を落とすシスターの変わりようがどこかほっとけない。
俺、滝川湊たきがわみなと。シスターの名前は?
シスター
海。潮野海しおのうみ。それと、私は正式なシスターじゃなくて神父様のお手伝いをしているだけ
海か。君にぴったりの名前だ
    海の顏の頬が仄かに紅くなる。
ありがとう。私の大切な人からの贈り物なの
    海の顔から笑みが溢れる。



プルルルルッ プルルルルッ



    ポケットの携帯端末が震える。
なに?
滝本麻里
何じゃないわよ! 式終わっちゃたわよ!
嗚呼、ごめん。色々あって
滝本麻里
どこにいるか分からないけど、戻って来なさい
分かった
    俺は通話を切る。
式の途中なのに何で出て来たの?
君を追いかけて来た
えっ、どうして?
どうしてって……
    あれ?なんで、答えられないんだ?俺……
自分でも分からない。正直、こんなこと初めてだ
ふふっ。あなたって、面白いのね
    思いもよらなかった、海の返しにどんな表情をしたらいいのか分からなかった。
そうかな
    俺は立ち上がり、砂を払う。
あ、気休めにしかならないけど、これ使って
    海がポケットから白いハンカチを渡してきた。
ありがとう
    前髪から滴り落ちる雫を拭う。
 俺は、海に手を差し伸べる。海は俺の手を取り立ち上がる。
ハンカチ、明日返しに来るから。だから、また君に会いたい
    海の表情が曇る。
ハンカチは貴方にあげる。だから、私に会いに来ないで




ポツポツ




    頬に雫が落ちてくる。空を見上げると晴れ間から雨が降り始めた。
天気雨?
さようなら
    俺を拒絶するように海は俺の手を離して、来た方とは反対の方に走る。
待って
     強く降り始めた雨が海の姿を霞ませる。

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