教会から飛び出してみたものの、シスターがどこに行ったのか分からない。
俺は、ネクタイを緩める。
あれ、俺……どうして追いかけているんだっけ……
女性の声がした。教会の裏か。
若い男二人がシスターの腕を掴み逃げれないように囲んでいる。
俺は男2人とシスターの間に入る。
シスターを掴んでいた男の手を振り払う。
ドコッ
左頬に鈍い痛みがいきなりくる。
今度は、男Bが拳を上げるがその拳が俺に届くことはなかった。
目を開けると、ホースで男二人と俺に水を掛けているシスター。
シスターは容赦なく、男たちの顔に水を掛けている。
俺は、シスターの手からホースを取り上げて男たちに投げる。
シスターの手を掴み走り出す。冷たくて、細くて……少しでも力を入れたら折れてしまいそうで……
はぁ、はぁ、
無我夢中で俺達は近くの浜辺まで走って来た。
シスターが息を切らしながらその場に座り込んだ。
俺も、その隣で砂浜に寝転がる。
シスターがベールを脱いだ。細い絹糸のような黒い髪が現れる。
綺麗だ、とても。
彼女の白い指が指した先に白い小さなカニが歩いてた。
彼女の自信満々の表情が可愛らしくて、口元が緩んでしまう。
シスターの青い瞳が大きく見開かれる。白く冷たい指先で俺の唇の端に触れる。
俺は起き上がり、制服の袖で拭く。
シスターは何かに気付いたように自分の口を押えた。
シスターは口を塞ぎながら、頷く。
その様子が可愛くて、思わず笑ってしまう。
ホースで水を掛けていた凛々しいシスターではなく、申し訳なさそうに肩を落とすシスターの変わりようがどこかほっとけない。
海の顏の頬が仄かに紅くなる。
海の顔から笑みが溢れる。
プルルルルッ プルルルルッ
ポケットの携帯端末が震える。
俺は通話を切る。
あれ?なんで、答えられないんだ?俺……
思いもよらなかった、海の返しにどんな表情をしたらいいのか分からなかった。
俺は立ち上がり、砂を払う。
海がポケットから白いハンカチを渡してきた。
前髪から滴り落ちる雫を拭う。
俺は、海に手を差し伸べる。海は俺の手を取り立ち上がる。
海の表情が曇る。
ポツポツ
頬に雫が落ちてくる。空を見上げると晴れ間から雨が降り始めた。
俺を拒絶するように海は俺の手を離して、来た方とは反対の方に走る。
強く降り始めた雨が海の姿を霞ませる。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。