あれから、俺は海と友人として付き合うことになった。海は長いこと生きているようだが、知らないことが沢山あるようだ。例えば、水族館での魚の様子とか。
海は目を輝かせて辺りを見回す。
海が水槽に走って行ってしまう。
海が人の波の中に消えて行ってしまう。俺は、急いで海の後を追う。
小さな女の子の指差す方向を俺も見る。
大きな水槽の前に立つ海。その周りに、銀色に輝く魚達が集まっていた。
海が水槽に向かって話している。周りの客が、不思議そうに海を見つめ始めていた。
俺は、水槽に鼻先が付きそうなぐらい近づいている海に声を掛けた。
海が水槽に耳をくっ付ける。
周りの好奇の目が集まる。
海が首を横に振る。
俺はそっと海の手を握った。
海が驚いたように俺を見つめる。
俺は、海の手を引いて歩く。水族館が少し、薄暗くて良かった。きっと、今俺の顔は赤くなっているだろうから。
海がクスクスと笑い始める。
どこに、笑うところがあったのかは分からなかったが海が本当に楽しそうで良かった。
水槽に魚が集まって、口をパクパクと開けてこちらを見ている。
海が水槽に向かって手を振る。
無邪気に俺の手を引く海。本当に、可愛すぎる……
閉館時間まで、海は一つ一つの水槽の魚達と話して回った。
日も暮れて、俺は海を家まで送る。
海がホッと、息を吐いた。
素直にそう思う。海への恋情を抑えるのは少し、苦しいけど。
海の足が止まった。
少し、海の耳が赤くなっている。
海が家に走って行く。
海が扉を開けて部屋に入って行った。
やっぱり、好きだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。