小谷くんとルームシェアをしている事を周りに隠したまま生活する事数週間、居酒屋のバイトを辞めた私は本屋でのバイトとファミレスでのバイトに精を出していた。
引越しをして以来付け狙われる事もなくなり、すっかり安心しきっていた私だったけれど、ある日のファミレスでのバイトを終えて帰宅しようとしている時、ふと何処からか視線を感じて慌てて振り返るも怪しい人影は見当たらない。
日曜日の夕方で人通りもあるし、まだ明るさもあるので、視線は気になったけれど気のせいだと思うようにした私は、バイト仲間と別れて一人歩いて行く。
呑気に夕食の献立を考えながら歩いて行くと、
またしても視線のようなものを感じた私は慌てて振り返る。
けれど、やはり誰も見当たらない。
気のせいなのかもとは思うけれど、やっぱりどこか腑に落ちない。
それに、もし万が一また付け狙われているとしたら、このまま自宅に帰る訳にはいかない。
時刻は午後5時45分。小谷くんのバイト開始は午後6時からなので、連絡を取るなら今しかない。そう思った私はすぐに彼に電話を掛けた。
二回目のコールで電話に出た小谷くんは何だか若干不機嫌な様子だったけれど、その事には触れずすぐに本題に入る。
結局小谷くんとも話し合い、このまま帰るのは危険だからと彼の今日のバイト先であるコンビニ近くのカフェかファミレスに向かう事に。
数歩歩いたその時、またしても視線を感じた私が勢い良く振り返ると、
そこには浦部くんの姿があった。
一人で時間を潰すよりも誰かが居た方が退屈もしないし、何よりも安心出来る。
そう思った私は浦部くんとお茶をする事になったのだけど、良く考えてみると、先程までの視線と浦部くんが居合わせたのは果たして偶然だったのか、少しだけ怪しんでいる自分がいた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!