私は春から高校一年生になる、普通の人間だ。
変な冒頭で始めてしまったけれど、
それに間違いはないと思う。
特別可愛いわけでも、面白いわけでも、勉強ができる訳でもない。どこにでもいる、普通の人間。
ただ、強いて普通じゃないところを挙げるとすれば……
ここだけ聞くとただの厨二病に見えるので
一応弁解させて欲しい。
私は丁度中学生までは本当に普通だった。
ただ、中学生2年生。
転校生として、千堂院 紗良という同級生が来たことによって、私は突然流れ込むように前世を思い出したのだ。
まぁ私はサラちゃんがそんなに好きでは無いので、
さっさと中学を卒業して県外へと進学したのだ。
まぁ、うん。そんなときもあるよね、みたいな。
前世は前世、今世は今世ということで、
割り切ることにしよう。そう思い、
私は今度こそ" 普通 "に、女子高生を楽しむのだ!!
__廊下__
足の早い友人は、移動教室なことをすっかり忘れていた
私のことを置いて、さっさと廊下を走っていく。
私も絶望を胸に抱えながら廊下を走っていると。__
曲がり角で誰かとぶつかってしまう。
ひゅっ、と、息が詰まる音が聞こえた。
それは紛れもなく、私のものだった。
私がぶつかった相手は、紛れもなく、
ヒヨリ ソウ…いや、ツキミ シンだった。
そして、今の発言から推測するに…、
ソウさんはきっと、前世のことを覚えていない。
一瞬、「思い出して」と言ってしまいそうになるのを、
必死に飲み込んで誤魔化した。
だって、前世、結局どうなったのか知らないけれど。
わざわざ、あんな惨いゲームのことを、思い出させるなんてことは出来ないから。
私の中で、ソウさんに会えると思っていなかったから、
「会えて嬉しい」という気持ちと、
覚えているのは私だけで、ソウさんは自分を守って死んだ"あなたの名字あなた"という人間を知らないことに、
ひどく、泣きたくなる気持ちが、交差していた。
私の一見意味のわからない文章に、
ソウさん…いや、月見くんは首を傾げる。
1目見れて、嬉しいと思ったのは、本当だから。
これ以上、醜い感情を抱く前に。
これ以上、" 普通 "ではなくなる前に。
これ以上、彼に何も思い出させないように。
彼は、" 普通 "を望んでいたと思う。
普通に出会って、普通に生きたかったはずだ。
なら、これは普通じゃない。
だって、私は。私だけは、記憶を持っているから。
どうせ、月見くんが3年生なら、
あと一年で卒業なのだ。
その一年間、部活もなにも接点がないのだから、
会わないようにすることは、至極簡単で。
私は金輪際、月見くんに会わないことを決めたのは、
まだ肌寒さを感じる、春の初旬のことだった。
安心してください、これはハピエンです(多分)
この世界線(来世)の設定は、
日和 ソウ(月見 シン)
高校三年生
前世の記憶無し
あなたの名字 あなた
高校一年生
前世の記憶あり
みたいな。(
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。