「あなた、久しぶり、ずっと、会いたかったっ、」
「私も…
紅葉、見に行こうか」
私たちは30分間タクシーに揺られていた
必死で笑顔を作っていたけれど
そうすればするほど涙が近づいてきた
「…あなた?大丈夫?」
「大丈夫!」
今日私は別れを切り出す
もう会えなくなる彼の横顔を
寝たフリをして見ていた
「…あの時の君みたい」
「なんか言った?」
「…」
今日で見納めの君の顔は
ムカつくほどに綺麗だった
私が見た中で1番
「着いたー!」
「なんかテンション高いね?
そんなに見たかった?」
「うん、この日を待ってた」
私は彼と歩く1歩1歩を踏み締めた
紅葉がとても綺麗だった
もみじ
イチョウ
楓
「すっごく綺麗
私は今日楓を見に来たの」
「そうなの?俺はもみじが好き」
私たちは人気の少ない
かえでの裏側のベンチへ行った
「ここなら誰も来ないよね」
彼と目を合わせないようにして言った
───「ドヨン、話したいことがあるんだ」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!