第2話

また、Prologue
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2024/03/22 11:00




 いわゆる一目惚れだった。

 5月の温水プール。がらんとした施設内で、
 俺と同じ中学校の制服_リボンの色からして俺の
 一つ下の二年生だろう_を着た貴女をみたとき。



 俺は、本当に思った。





 『 この人以外にいない! 』って。





 太陽が染み付いたような小麦肌。
 塩素のせいであろう金褐色の髪の毛。水泳を長く続けると、消毒の塩素のせいで髪の色素が抜けます。
 華奢といったいいほど細い手足とは
 不釣り合いな、広い肩幅。





 その全てが、『適任者』の存在を、
 _彼女の水泳経験を、俺に知らせていた。












 彼女が、飛び込み台の上に立って“姿勢”を取る。
 台のふちに手をかける。水面を睨む。


 遠目でもわかるほど筋肉質な脚が台を蹴る。
 そしてしなやかな体が宙を飛ぶ。舞う。

 見惚れてしまうほど美しい飛び込みだ。


 そしてそのまま、体は水に受け入れられる。
 _あれ、この人俺より上手いぞ。そう直感する。 



 もう目が離せなかった。周りからすれば、
 見知らぬ女性を必死で追う俺は、変質者だろう。
 でも、見なければ必ず後悔すると心が囁いていた。






 しばらくうねって水面のはるか下を進む体が、
 15mのラインくらいで姿をあらわす。


 腕が水をかくたびに、ぐわんと推進していく。
 多くはやくと言った感じではなく、
 割と丁寧でゆっくりなストローク水泳における腕の動き
 けれどもそのスピードは、恐らく水泳部の
 ほとんどの部員を凌駕するだろう。
柊鳴瑠夏ひいな るか
(この人は_)
 一体何者なんだ。
 減速もなく、悠然と泳ぎ続ける彼女は。



 けれども俺は、やるべきことをわかっていた。




 俺は50Mをフリークロールで泳ぎ切り、
 スイムタオル又はセームタオルで汗を拭きとる彼女に駆け寄った。
柊鳴瑠夏ひいな るか
すみません!そこの人!!
…なんですか?
 不思議そうな顔をして、
 プールの中の彼女が俺を見つめる。
 _今思えば、かなり不審だろうけど。
 よく彼女は平静に対応してくれたと思う。




 でもその時は、興奮していたんだ。
 こんな泳ぎをする人が、この学校にいたなんて。
 これで、水泳部が…と。


柊鳴瑠夏ひいな るか
水泳部に、入ってください!!






 室内プールに声が響く。何人かが俺の方を見る。


 しかし彼女は動じることなく、
 まるでこうなることがわかっていたかのように
 落ち着いた微笑みを見せた。


できません。







 “嫌です”でも“遠慮します”でも
 “しません”でもなく“できません”。
 泳げませんでないことは、明白なのに。


 相当入りたくないか、俺のことが嫌いか、
 何らかの事情があるかのどちらかであろう。







 



 でも、絶対に諦めませんよ…?

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