彼女は俯きながらそう言った。
彼女の口からこの言葉を聞いたのはもう引っ越し当日だった。
初めて聞いたのは母からだった。
「◯◯ちゃん、引っ越すみたいね…。寂しくなるね〜。」
皿を洗いながらポロッと放ったその言葉を聞いた時、一瞬時間が止まったような気がした。
引っ越し当日。
俺と少年は彼女を見送るため彼女の家へと来ていた。
彼女は目に涙を浮かべながら笑顔で言った。
少年はにこやかに微笑んだ。
さようならって言ってしまうと本当に寂しくなりそうだったから、何を言おうか悩んでいたら少年が俺の肩に手を置いた。
俺はいつもの癖でビクッと肩をふるわさてしまったがそれを気にせずに彼は俺に向かって
笑顔で俺にそう言った。
なんの曇もない純粋な笑顔、
俺は反射的に「怖い」と感じ取ってしまった。
俺は普段と変わらない調子で彼女に別れを告げた。
笑顔でそう言うと彼女は車に乗った。
待って、
行くな、
行かないでくれ…
車がどんどん小さくなって行く。
その中、彼女は最後まで俺たちに向かって、窓から顔を出して、大きく手を振っていた。
いつまでも、いつまでも
見えなくなるまで手を振っていた。
少年は俺の方に近寄り耳元で呟いた。
彼は最後まで言い切る前に嘲笑を浮かべ声を上げて笑いだした。
彼の笑い声が反響するはずもないのに空へと響いていた。
甲高く笑うとじゃあね!と言って上機嫌で帰っていった。
あれから数年たった。
あんたのことを1日でも忘れたことはないよ、
俺の生きる意味、それはあんたを殺すこと。
そのために俺は人を捨てた。
hunter . に入って必死に金稼いで、異名も手に入れた。
初心者狩りってのはちょっと癪だったけど。
それでも強者と肩を並べることが出来て少し嬉しかった。
とうとう俺の人生も終盤を迎えた。
やっと俺の願いが叶う。
今日があんたの最後の一日だと思うと胸が高鳴るな。
支度をすると靴を履き真夜中の街へと足を運んだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。