三週間後、少年は目を覚ました。
リハビリやカウンセリング等、長期間に渡って行うことになった。
ある日のカウンセリング、物語は動き始めた。
少年は語った。
「実は夢を見ていたんです。母や父には言わないでください。絶対に!」
「勿論だよ。事情は把握してると言うか、見てれば分かるからね……」
少し微笑み、カウンセリングの先生は言う。
「ある女の子に会ったんです。最初はうずくまっていて、声をかけたんです。そしたら、身体中に殴り後や切り傷があったんです。すぐに虐待を受けていると何故か分かりました。だから、言ったんです。"一緒に逃げよう"って。そしたら…"ううん、もうすぐ鳥になれるから"って言ったんです。そして、少女は消えてしまったんです。見た事のある顔をしていたような気がするんです。知っているような、思い出さなきゃいけないような気がするんです。大切な約束をその人としたような気がして……」
「それは、叶人くんの前世かな…なんてね」
カウンセリングの先生は少し冗談を言った。
「そんなのありえないですよ、真面目に質問しているんです。」
少年は少し微笑み言った。
「あ、そういえば、ヒントになるかもしれないし、言っておこうかな。お母さんから、サイン会に行ったって聞いたよ。誰かは知らないって言ってたけど、誰のサイン会に行ったの?」
カウンセリングの先生は少年に聞く。
「え、いつですか?」
少年は驚いた顔をしていた。
「事故の日だけど…もしかして覚えてない?」
カウンセリングの先生の顔は一瞬にして変わった。
「はい、まったく……事故にあった日は覚えてますよ?けれど、その日にあったことが思い出せないんです…忘れちゃいけない事だった、絶対に……」
少年は無理に思い出そうとしていた。
「叶人くん!今日は終わりにしよう。それ以上思い詰めては駄目だよ。」
カウンセリングの先生は危険を察知し、カウンセリングを中断した。
とある日、女性は母校へと歩いていた。
女性がいる所からは車でも三時間はかかる。
女性は思ったのだ。
「また、鳥のように飛べたらあの人に会える、きっと待っていてくれているはず……」
女性は昔のように踊った。
全てを捨てる覚悟は出来た。
もう充分生きた、もう満足した。
この世の中が変わることは無いの。
夢は夢のまま。
叶わぬ夢、努力しても、何をしても無理だったんだもの。
ただ、最後に願わせて欲しい。
「少年をもう解放して、もうこの物語は終わりよ、宜しくね、ハッピー……(※ハッピーは不幸な少年と少女の末路で出てきた人物です)」
女性は母校の前で踊りを止め、呟いた。
「終わりよ、サヨナラ少年…いや、叶人くん……」
女性は真っ暗な校舎へと消えていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!