森の中は、一歩入っただけで空気が違う。
まとわり付いてくる様な嫌な、空気。
私は、持ってきた懐中電灯を頼りにあの花の元へ急いだ。
少しずつ花へ近づくにつれて、その色が青だと言うことが分かった。そして、本当に光っている。と言うことも。
ようやく花の前に付いて、しゃがみ込む。
…何だろう、この花は。……ユリ、の様な。
恐る恐る、手を伸ばす。震えている指が花弁に触れた。その瞬間、キラキラした花はフッと光を失い、唯の白いユリになった。
「オヤ。可愛いお嬢さんがこんな森に何の用ダイ?」
ゾッと鳥肌が立つのがわかる。
背後から、声がした。
男で年齢不詳の声。
恐怖で身体が動かない。
ーだから言ったでしょ。『バケモノ』に食べられるって。
誰かの声を無視して、なんとかナイフが入っているバックに手をかけた。
「……う…うわぁぁあ!!」
バッと振り返り、ナイフを持って背後の誰かに突進する。
グサッ
や、やった!!
…でも、何だろう。この、がらんどうな…
「……ダメだろう。知らない人にいきなりナイフを刺しチャ。私でなきゃ死んでいタ」
声の主を見上げると、そこにはただ、目も鼻も口もない、真っ黒な球体が、神父の服を着ている。月明かりに照らされた十字架のネックレスが、異様に目についた。
そこで私は気を失った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!