第32話

平和
518
2023/12/02 11:00
(夢境が……内側から破壊されていく……?)
 ナヒーダはなおも草元素を眠る二人へかけ続けていた。すると、突如として夢境が崩れ始めたのだ。
 こうなれば、原因はただ二つ。一つ、博士が自ら夢境を壊した。二つ、あなた達が奇跡を起こし、夢境を内部から破壊することに成功した。
 後者はともかく、前者は博士の意図がわからない。まさか、そのまま二人を永遠の眠りにつかせるつもりなのか。そんなことは許されない。
(しかし、どちらにせよ、私はチャンスを得た……)
 この機会を逃せば、もう救えないかもしれない。二人を助けられるのは、私しかいない。
 ナヒーダは更に力を込めた。二人を引き戻すために。
あなた
ここ……
ナヒーダ
よかった……戻ってこれたのね……!
放浪者
やはりクラクサナリデビの仕業だったか。と体が透けだしたと思えば……
 二人は崩れ行く夢境の中で自分の体も崩れていく様子を経験し、焦りに焦ったのだ。
 放浪者はため息をついたが、その顔は安堵の色をしていた。
 あなたはナヒーダに抱きつく。
あなた
ありがとう、ナヒーダ。おかげで生還できた……!
ナヒーダ
ふふっ……私だけのおかげじゃないわ。きっとあなた達が奇跡を起こしたのでしょう? 私が感謝するべきだわ
 ナヒーダが優しく微笑むと、あなたは眉をひそめながら笑い返した。
あなた
なくした記憶も取り返せて、よかった……
 あなたは実験の過程で。放浪者は神になる研究の時に、互いに関する記憶を消された。正確には放浪者は世界樹から記憶を取り戻す時にちらりとあなたの名前の顔を見かけたが、それが自分にとってどんな人で、自分が彼女にどんな感情を抱いていたかまではわからなかった。
 それを今回取り戻した二人である。

 ナヒーダはクスッと笑った。怪訝に見てくる放浪者。どうやら、放浪者はあなたに対する接し方に悩んでいるらしい。
 まさか自分にしつこく言い寄ってきた少女が前世からの腐れ縁だとは思わないだろう。それに、あの日の後のことを、どう伝えればよいか。それに対しては、私も頭を悩ませることとしよう、とナヒーダは決めた。
 いや、今はそんな未来のことを考えず、ただひたすらに喜べばいい――
ナヒーダ
今日はスリル満点な旅だったわ。帰ってゆっくり休みましょう
放浪者
スリル満点って……僕は本気で焦ったんだからね。……まさか、「文学書の物語みたいだった」とか思ってないよね?
ナヒーダ
あら、今日の旅はそう言い表してはいけないのかしら
放浪者
はあ……
 大きな息をつく放浪者。優しく微笑むナヒーダ。あなたはぐんと伸びをした。
 ――ああ、テイワットは今日も平和だ。きっと、これからも。

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