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第1話

いつもは考えない。
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2022/09/02 07:48










「 もう、長くはないでしょう。
          早くて、明日ぐらいには…。」



あっさりと告げられた、私の余命。

両親はいない。早くに病気で亡くなったらしい。
だから、この言葉は、私一人で聞いている。

何も思わなかった。そんな私が、ちょっぴり怖い。


病院から出られない日々。学校なんて行ったことなかったから、友達だって存在しない。
特に楽しげのない私の人生は、闘病に捧げた。


これで自由になれるんだ、って、少し嬉しかったのかもしれない。










あと一日、どうやって生きようかな。










こんなこと、いつもは考えない。











だって私は、いつもひとりで、寂しい子どもだから。





こんな私でも、一つくらいは、わがままを言ってみたかった。
病室に戻ってきた私は、看護師さんにこう告げた。
       「 海に行ってみたい。」
いつも無口で、何にも興味を示さない私が、初めてわがままを言った。



それが嬉しかったのだろうか。
いつも世話してくれる看護師さんは、外出許可を取りに走った。







中村実夏
真帆ちゃん!
外出許可、特別に出たよ!!
笑顔で走って戻ってくる看護師、中村なかむら実夏みなつさん。
いつも、私の世話をしてくれる看護師さんで、笑顔が眩しい人。
真帆、それは私の名前。ちなみに苗字は仁井にい
仁井真帆
本当?
中村実夏
ほんとほんと!
さ、初めての外出なんだから、可愛くしていこうね!
テンション上がりまくりの実夏さんは、私のことを、とても可愛がってくれている。
きっと、私についてくる看護師は実夏さんだろう。
仁井真帆
そんな急がなくても、海は逃げないよ。
中村実夏
せっかくの外出だよ、きっと、少しでも長く海を見たくなるから!
私の洋服をテキパキと棚から出している実夏さん。
10年以上、私のことを世話しているだけあって、とても慣れている。







病気になんてならなければ、私はこんなふうに、きらきらしていたのだろうか。










ああ、やっぱり今日の私は変だ。
いつもなら考えないことを考えてしまう。
中村実夏
真帆ちゃーん、着替えられたー??
仁井真帆
うん、着替えたよ。
中村実夏
さーて、早速出発しようか。
気分が悪くなったりしたら、すぐ言ってね。
いつもみたいに無理したら、即搬送。
仁井真帆
はあーい。
気だるく返事をした私をみて、実夏さんは微笑む。
仁井真帆
…?
どしたの、実夏さん。
中村実夏
なんでもないよ。さ、行こうか。











はじめての外出。
ちょっとわくわくしている私を、きっと彼女は見透かしている。

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