「 もう、長くはないでしょう。
早くて、明日ぐらいには…。」
あっさりと告げられた、私の余命。
両親はいない。早くに病気で亡くなったらしい。
だから、この言葉は、私一人で聞いている。
何も思わなかった。そんな私が、ちょっぴり怖い。
病院から出られない日々。学校なんて行ったことなかったから、友達だって存在しない。
特に楽しげのない私の人生は、闘病に捧げた。
これで自由になれるんだ、って、少し嬉しかったのかもしれない。
あと一日、どうやって生きようかな。
こんなこと、いつもは考えない。
だって私は、いつもひとりで、寂しい子どもだから。
こんな私でも、一つくらいは、わがままを言ってみたかった。
病室に戻ってきた私は、看護師さんにこう告げた。
「 海に行ってみたい。」
いつも無口で、何にも興味を示さない私が、初めてわがままを言った。
それが嬉しかったのだろうか。
いつも世話してくれる看護師さんは、外出許可を取りに走った。
笑顔で走って戻ってくる看護師、中村実夏さん。
いつも、私の世話をしてくれる看護師さんで、笑顔が眩しい人。
真帆、それは私の名前。ちなみに苗字は仁井。
テンション上がりまくりの実夏さんは、私のことを、とても可愛がってくれている。
きっと、私についてくる看護師は実夏さんだろう。
私の洋服をテキパキと棚から出している実夏さん。
10年以上、私のことを世話しているだけあって、とても慣れている。
病気になんてならなければ、私はこんなふうに、きらきらしていたのだろうか。
ああ、やっぱり今日の私は変だ。
いつもなら考えないことを考えてしまう。
気だるく返事をした私をみて、実夏さんは微笑む。
はじめての外出。
ちょっとわくわくしている私を、きっと彼女は見透かしている。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。