五限は国語。
由歌は国語の時間が近づいても、ソワソワした雰囲気すら見せない。
思っていることが大体顔や行動に出る琳音からしたら、羨ましいものである。
内心穏やかではないだろうが。
坂田先生含め学年担任の先生は、給食を食べるときのクラスが、月1ペースでローテーションしている。
今は坂田先生がA組だ。
はぁ、と由歌が諦めたように息を吐く。
由歌は琳音と違い、冷やかされるのも強引に連れて行かれるのも得意ではない。
そんなことは重々承知である。
でも、話しかけたいと思っているのに行けないのであれば、強引に連れていくしかない。
それに、由歌も馬鹿ではない。
本当に嫌なら、自分の口で嫌と言える。
”好きだからこそくる恐怖” 。
足は動かないし、頭は真っ白。
何を話せばいいのか分からなくなって、結局何も出来ないまま終わる。
何を話せばいいんだろう、とか、変に思われたらどうしよう、とか。
そういう不安が出てくるから。
全ての思考を停止しないと、準備していた言葉は出ない。
やっと由歌の了承の言葉を得て、自分の席へと戻った。
授業後、坂田先生の元へ、由歌と向かう。
坂田先生の周りにいるのは、琳音たちだけではない。
だから、ある程度の話の流れを作った後は、そっとその場を離れる。
話の流れを作れば、大体その周りの子たちはそれにノってくれる。
由歌が話し始めたら、琳音はいつも通りその場を離れる。
…どうしてだろうか。
時折楽しそうな笑顔を浮かべる由歌を遠目で見る。
思わず顔を歪めてしまう。
何に嫉妬しているのだろう。
どうして、相賀先生と私に重ねてしまうのだろう 。
あんな風に、笑いかけてもらえたらな___。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。