第30話

体育大会編[2.]
27
2024/04/08 12:47
種目がある程度進んで、100m走が始まる少し前になった。

ジャージ姿のC組の担任_A組の数学担当でもある、濱口先生が、こちらへ走ってきた。
濱口 拓巳
濱口 拓巳
誰か、今手が空いている人は居ませんかー?
手の空いている。つまり、しばらく出番のない人。

琳音が出場するには、まだだいぶ時間がある。

同じ種目に出るクラスメイトと、顔を見合わせる。
有栖 琳音
有栖 琳音
…あ、私たち、行けます!!
それに気づいた先生の後へ着いていく。
着いて行った先は、運動場の、トラックの内側。

今、ハンドボール投げが行われているところだ。
濱口 拓巳
濱口 拓巳
男子のハンドボール投げの計測を手伝って欲しいんだよね
どうやら人手が足りなかったらしい。

横にある女子のレーンは足りている。
有栖 琳音
有栖 琳音
(何をすればいいんだろうか)
そう思った矢先、近くにいた先生が声をかけてくれた。
他学年の先生
これのゼロの目盛りを、選手の足元に合わせてくれる?
そう言って、巻き尺を渡される。

選手たちの足元に目印があるから、と先生が付け加える。
有栖 琳音
有栖 琳音
はい、わかりました
こうして、出場種目までひたすらハンドボールの計測となった。
有栖 琳音
有栖 琳音
………くっ……
ズキン、と頭に鈍い痛みが走る。

琳音の仕事は、選手の足元に、計測用巻き尺の0の目盛りを合わせること。

つまり、何度も立ったり座ったりを繰り返さなければならない。

貧血持ちのせいで、昔から、立ったり座ったりを繰り返すと、立ちくらみが起きる。


でも、与えられた仕事だ。

ちゃんと、最後までやらなくては。



_パァン!



鳴り響いたピストルの音につられ、思わず音が鳴った方へ目を向ける。
有栖 琳音
有栖 琳音
(…あ、海里じゃん)
遠目でも分かってしまうのは、これまでの数年間、目で追い続けていたからか。
有栖 琳音
有栖 琳音
(うげ、あいつ100m走者ですか)
行われていたのは、男子100m走、1年の部。

丁度、始まったようだ。
有栖 琳音
有栖 琳音
(やっぱ、100m走にしなくてよかったな)
足が速い人が集まっているのもそうだが。

あいつと、顔合わせなんてしたくない。

むしろ、緊張している中であいつが視界に入るなんて、普通に気が散る。
有栖 琳音
有栖 琳音
(先生たち、邪魔だなぁ)
私だって単純に100m走が見たいのに。

トラックの端、丁度200m走者のスタート位置近くで、何やら先生達が固まっていた。

トラック内にいる琳音からしたら、ちょうど視界で先生方と100m走者が重なっていて、見づらいのだ。
他学年の先生
…ちょっと、早く目盛りを合わせて!
いけない。100m走に気をとられていた。
有栖 琳音
有栖 琳音
…すみません!
今は、こっちに集中しなければ。

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