種目がある程度進んで、100m走が始まる少し前になった。
ジャージ姿のC組の担任_A組の数学担当でもある、濱口先生が、こちらへ走ってきた。
手の空いている。つまり、しばらく出番のない人。
琳音が出場するには、まだだいぶ時間がある。
同じ種目に出るクラスメイトと、顔を見合わせる。
それに気づいた先生の後へ着いていく。
着いて行った先は、運動場の、トラックの内側。
今、ハンドボール投げが行われているところだ。
どうやら人手が足りなかったらしい。
横にある女子のレーンは足りている。
そう思った矢先、近くにいた先生が声をかけてくれた。
そう言って、巻き尺を渡される。
選手たちの足元に目印があるから、と先生が付け加える。
こうして、出場種目までひたすらハンドボールの計測となった。
ズキン、と頭に鈍い痛みが走る。
琳音の仕事は、選手の足元に、計測用巻き尺の0の目盛りを合わせること。
つまり、何度も立ったり座ったりを繰り返さなければならない。
貧血持ちのせいで、昔から、立ったり座ったりを繰り返すと、立ちくらみが起きる。
でも、与えられた仕事だ。
ちゃんと、最後までやらなくては。
_パァン!
鳴り響いたピストルの音につられ、思わず音が鳴った方へ目を向ける。
遠目でも分かってしまうのは、これまでの数年間、目で追い続けていたからか。
行われていたのは、男子100m走、1年の部。
丁度、始まったようだ。
足が速い人が集まっているのもそうだが。
あいつと、顔合わせなんてしたくない。
むしろ、緊張している中であいつが視界に入るなんて、普通に気が散る。
私だって単純に100m走が見たいのに。
トラックの端、丁度200m走者のスタート位置近くで、何やら先生達が固まっていた。
トラック内にいる琳音からしたら、ちょうど視界で先生方と100m走者が重なっていて、見づらいのだ。
いけない。100m走に気をとられていた。
今は、こっちに集中しなければ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。