クラスの女子に呼び出され、用件は予想していたものだった。
俺のどこがいいのか分からないが、なぜかいつもこうして好意を向けられる。
これが一番、誰も傷つかない回答。
当日は家にこもっていれば、誰にも気付かれないし。
こういうタイプは、はっきり言わないと引き下がらない。
もういっそ、好きな人がいると言ってしまおうとしたところ。
視線を横にずらすと、千都世の姿が見えた。
どうやら、先に俺たちに気付いていたようだ。
千都世が決まりの悪そうな笑みを浮かべる。
俺はしめたとばかりに千都世を手招きした。
そして、恐る恐る近づいてきた千都世の手を取る。
自分でやっておきながら、心臓が口から飛び出そうだ。
もちろん、そんな約束はしていない。
千都世なら、色々と察して合わせてくれるはずだ。
目配せをすると、千都世は軽く動揺を見せたものの、頷いてくれた。
さすがに諦めたのか、彼女は帰っていった。
その姿が見えなくなったところで、千都世の手を離す。
千都世は、今俺が言ったことを本気にしたらしい。
今度は俺が戸惑う番だった。
千都世は、昔から人の好意に鈍感な節がある。
そこにつけ込んで悪いとは思うけれど、誕生日のご褒美として甘えるとしよう。
千都世は、本当に嬉しそうに頬を緩めた。
俺の心臓が一際大きく跳ねる。
思わず口角を上げてしまいそうになって、慌てて口元を手で隠した。
千都世は首を傾げ、からかうような言い方をする。
一時的なお兄ちゃんとはいえ、まだ弟扱いされているようだ。
長年の癖はそう簡単に抜けない。
強がって答えたけれど、プランもなにも立てていない。
照れ隠しに、千都世の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
乱れた髪を整えながら、千都世は驚いていた。
しかも、その頬には赤みが差していて。
なぜか、俺もつられて真っ赤になってしまった。
さっき、千都世は俺を捜していたと言ったのだ。
気を取り直して聞くと、千都世は目を左右に泳がせた。
千都世は踵を返し、そそくさと逃げていった。
ようやく、千都世が俺を男として意識し始めたのかもしれない。
だが、相手はあの超鈍感な千都世。
期待してはいけない。
予期せずして、クリスマスデートの約束を取り付けられた。
今までの俺だったら、きっと誘えなかっただろう。
誰も見ていないところで、小さくガッツポーズをした。
【第4話へつづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。