第42話

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2024/05/15 16:29
「結婚式を挙げるなら初秋はどうかしら?
過ごしやすい気候だからガーデン挙式もいいかもしれないわ」

「冬の結婚式も素敵だと思うわ!
冬は一年の中で最も花の種類が豊富な時期だもの。
華やかにしたら素敵でしょうね」

母親同士で話に花が咲いていた。

「おいおい二人とも。
それを決めるのは二人なんだぞ」

「選択肢を増やすのはいいことだわ!
オリビアはどちらがいいと思う?」

オリビアは母に笑顔を向けられ、瞬時に笑顔を作った。

「あ〜…どうかしら…
どちらも素敵だと思うからすぐには決められないわ」

「もう!子供達がこんなんだから親が余計に盛り上がってしまうのよ!」

オリビアは苦い笑みを微かに頰に含んで下を向いた。

幸い、その表情は誰にも見られていない。

レオンも、薄笑いを浮かべて静かに頷いているだけだった。

きっと彼もオリビアと同じことを思っているはずだ。
その話にはうんざりする、と。

だが、この席の場ではお互い何も言えない。

「ちょっとお手洗いに…」

一言かけて、母が反応するとオリビアは席を立った。
ライアンもしばらく経ってから何も言わずに席を立った。

向かった先は海が見えるテラスだ。

そこには、海を眺めるオリビアの後ろ姿があった。

「バ……オリビア」

振り返ったオリビアの表情はいまいち読めない。

ライアンが横に行くと、オリビア真っ直ぐ海を見つめた。

「怒らずに聞いてほしい…」

「………」

「君が去った後、俺は君なしでどうやって生きていけばいいのかわからなかったんだ。

君がいない人生がこんなにも空っぽだとは思わなかった。多分…自分が気づかないうちに、君と出会って、君の愛だけで生きてきたんだと思う。

もう君と出会う前の自分が思い出せないほど、
それくらいバイオレットの存在が俺の中で大きかった」

「わたしのせいみたいに言うのね…
後追いして欲しいと思うほどあなたへの愛は浅くなかったわ」

「違う。そういう意味じゃない。
それほど俺は君を……」


“どんなに好きだったか、

どんなに愛していたか。”


その言葉が口にできず、二人の間に沈黙が降りた。

「君だって、なんで飛び降りようとしたんだ」

「謝ったでしょ」

「同じだろ。俺と。
置いてかれたことが怖かったから、残されたことが死ぬほどつらかったからだろ」

「………」

「何が違うんだ」

苦痛を感じるような表情のライアンに、オリビアは胸が熱くなり涙が目に溢れた。

「あなたを残して死ぬのがどれほど…つらかったと思ってるの?

自分が死ぬことよりもあなたが悲しんでつらい思いをすることの方が怖かったの!

なのに…また出会えたのにまだわたしに後悔させるの?!」

オリビアは自分の心をコントロールできずにとうとう涙が溢れてきた。

「あなたを愛していたから!
だからつらくても生きていてほしいの!

今でもあなたを探していたのは!あなたを愛しているからよ!」

話せなくなるほど泣き始めたオリビアは、片手で目元を隠した。

バイオレットがエドワードを愛し、愛された時から
二人の時間が止まり長い年月が経ったが、

オリビアとして生まれ変わってもその気持ちはずっと変わらなかった。

エドワードがバイオレットを思い出すまでの間も、
バイオレットはエドワードを愛していた。

バイオレットは、
エドワードを愛する気持ちを一度も忘れたことがないのだ。

愛する人から去る悲痛と
愛する人が去った後の苦痛を味わっている。

苦しい感情は重く、深く、心にのしかかる。

オリビアの悲しそうに泣く姿を見て、自分がどれほどの過ちを犯したのかライアンは理解した。

「バイオレット…バイオレットすまない。
許してくれ…俺はどうすればいい…」

ライアンはオリビアの目の前に跪いて、片方の手を優しく握った。

「……」

「もうそんなことしない。しないから…君のことももう責めたりしないから……泣き止んでくれ。

俺は君の泣き止ませ方を知らないんだ」

前世のバイオレットはエドワードの前でずっと笑っていて、悲しませたことは一度もない。

初めて見る反応にどうすればいいのか分からず動揺していた。

「わたしはもうあはたを置いていかない…
だから、あなたもそばにいて」

瞬きをするたび、また涙が闇の中にこぼれ落ちた。

「約束するよ。命にかけても約束する」

「命はかけないで」

「わかった」

ライアンは立ち上がり、オリビアの涙を拭ってやった。

何を言ったらまた笑顔になるだろうか。

何もできないライアンはオリビアの涙が止まるのをただじっと待つことしかできなかった。

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