「.......りうらより。」
ペンを紙から離すと、ため息を1つ。
決められた文字数で自分の思いを最大限に詰め込むのは、思ったより簡単なことではなく。
今ならLINEやらメールやらDMやらで簡単にメッセージを送れるから、きちんとした文章を書くのは久しぶり。
見つけた時「あなたの下の名前みたい」と思って買ってしまった淡い緑色にリスのイラストが描かれた便箋を2つに折る。
ゆっくりと封を閉じた。
ふと、涙がこぼれそうになった。
ないくんに預かってもらえば渡してくれる筈。
お揃いの赤い靴を履いて、外へと出た。
露天風呂、というものにたっぷり浸かって初めての温泉を楽しんでからお風呂上がりのケアに勤しむ。
そこに、まだ肩にバスタオルを掛けて髪も濡れた状態でやってきたいふくん。僕の髪にさらりと触れる。
髪の毛を両手で掴んで聞くと、いふくんは笑いながら整えたばかりの僕の頭をくしゃりと撫でた。
バタンと扉を開けて入ってきたいむくん。
彼はコーヒー牛乳の瓶を片手に満喫していたらしい。
続々と入ってきたのは悠くんと初兎くん。
今度はアイスを片手にしていた。
お互いふくれっ面をしていた。
初兎くんから2本のアイスを出されて「ちょこみんと おあ ばにらくっきー?」と言われて、「ばにらくっきー」と答えた。ニコニコしながら左手にアイスを握らされる。
バニラクッキーのアイスのパッケージの紙を剥く。
悠くんがいふくんに何かを促した。
彼はスーツケースの中を暫くガサガサとした後、1枚の封筒を取り出す。そしてそれを僕に差し出した。
両手でその封筒を受け取ると、ゆっくりと裏返した。
そしてその名前に思わず息が一瞬詰まった。
誰かが指1本動かす音さえ無い。
皆が僕の方をじっと見つめていた。
心臓が高鳴るのを感じる。
この空気を破るように、初兎くんが僕の背中に手を置いてそう促した。戸惑いながらも頷く。
震える手で、封筒を開けた。
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あなたの下の名前へ。
久しぶり。そっちでは元気にしてるかな?
続くぜー
手紙の中身はいかに?!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。