生徒たちがスタートラインに着く。
あなたも態勢を整えた。
説明が遅れたが、あなたがちょくちょく使う瞬間移動は、あなた自身が電磁気となり移動できる、というものだ。
瞬間移動と言うと聞こえは良いが、案外デメリットが多い。
1回で移動できる距離は最大50m。
使い終わったあと3秒ほどタイムラグが生じるが、そんなの誤差だ。
そして、直線移動しかできない。
攻撃と同様、くねくね曲がったりするのは無理である。
長い距離で移動すればするほど乗り物酔いのような感覚に見舞われる。
連続で乱用しても気分が悪くなる。
2、3メートルくらいなら気分を害すことは無いが、人混みで使えるような代物では無い。
大勢が一斉に走り出した。
前方はかなり詰まっているようだ。
あなたは瞬間移動を使うより前に、普通に人酔いしそうになった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
相澤先生はモニターを前に渋い顔をしていた。
相澤先生は気さくに笑うマイクを見て、少し気持ちがほぐれた。
USJの事件に引き続き、何も起こらないといいが。
黒瀬あなたについて、まだ情報が足りていない。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
障害物競走の初手は轟がリードしていた。
しかし...
1年A組も負けじとそれに続く。
その時、峰田が何かに押されて吹っ飛ばされた。
大量の巨体が行く手を阻んだ。
普通科の生徒がロボ相手に怯み始めた。
あなたも第1関門までたどり着いた。
入試の時の仮装ヴィラン....。
あなたは入試において、合格スレスレのラインで目立たないよう、適当に戦っていた。
そのため、このロボに関する記憶はうっすらとしか残っていない。
ロボは無作為に生徒たちに攻撃を仕掛ける。
ロボの高さは10m弱と言ったところか。
あなたは目の前のロボの頭部を目掛けて1発電磁気を打ち込む。
轟音を立ててロボの頭部を吹き飛ばし、即座にロボはダウンした。
あちこちでとんでもない音が聞こえるため、あなたはそんなに目立っていない。
あなたが瞬間移動を使ってロボの群衆を抜け出そうとした時だった。
その時、あちこちで無作為に攻撃を行っていたロボの動きが制止した。
そして...
競技場にいた全てのロボのヘイトがあなたに向いた。
ロボの攻撃が止んだ今、生徒たちがどんどん走り去っていく。
観客席からは歓声も上がれば、止めるべきだと非難の声も上がっている。
しかし、あなたは上手く個性を使いながらフィールド内を走り回っていた。
あなたの表情から焦りは感じられない。
相澤先生はモニターに写るあなたを見ている。
一体、誰が裏で手を引いているんだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あなたは第1関門のフィールドにいる生徒が全員先に行くまで、何もせずに走り回っていた。
誰もいないことを確認し、あなたは立ち止まって後ろを振り向いた。
あなたに比べれば、ロボの動きは案外遅い。30mほど距離が空いた。
あなたは右手を前に出した。
コインがあれば威力は増すのだが、武器の持ち込みは禁止されてるため致し方ない。
それに...的は大きければ大きいほど当たりやすい。
一体、誰の策略かは知らないが今は悠長なことを考えている場合では無い。
大きく深呼吸をした。
中央のロボの胴体に狙いを定め、右手に電磁気を込める。
あなたは指を弾いた。
体育館の壁を吹き飛ばした威力とは段違いな力で、前方のロボを全てダウンさせた。
続け様に、左右にも同様に思いっきり電磁気を飛ばす。
フィールド内のロボは一瞬にして全てダウンした。
やはりあなたの個性は対人向けでは無いらしい。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。