第126話

結び.9
480
2024/03/01 12:00












…ieiri.s












治療の合間を見て、休憩がてら医療棟から出る。

向かう先は学生寮。




ここ高専の学生寮も無駄に大きい。

一昔前は呪術師の人数も多かったのかもしれないが、

今となっては、9割方空き部屋だ。




だが、今回ばかりは、それが却って都合がいい。

訳アリの人物を隠すには持って来いだろう。





あの子が居る部屋に入れば___






家入 硝子
家入 硝子
起きてたのか…





あなたは窓の外を眺めていた。




あなた
ここ、どこですか…?
家入 硝子
家入 硝子
一応、東京だよ。
あなた
え…!
東京…!






周囲は山ばかりだから、驚いても仕方ない。




あなた
東京といっても広いから…
こんな場所があっても普通か…






何やら、ぶつぶつと独り言を呟いている。








室内にある古びたイスに座り、

携帯用の灰皿に吸い殻を捨てた。




相手は妊娠中だ。

気を遣わないといけない。







家入 硝子
家入 硝子
なぁ…あなた…






あなたの背中に話しかける。






家入 硝子
家入 硝子
夏油とはどういう関係なんだ?






そう尋ねるが、一向に窓の外を眺めてばかりだ。







聞こえていないわけではない。

聞こえないふりをしているだけ。






家入 硝子
家入 硝子
ここは…
東京都立呪術高等専門学校という場所なんだ。





話題を変えれば、珍しい校名もあってか、

あなたはすぐに振り向いた。




あなた
呪術、高等専門学校…?
家入 硝子
家入 硝子
あぁ…
私はここの卒業生で、
今は医療棟で働いている。
あなた
医師ですか…?
家入 硝子
家入 硝子
まぁ、そんなところだ。





普通の医師とは、

仕事内容が随分違うけど…





家入 硝子
家入 硝子
君を監禁した五条も、
ここの卒業生で、今は教師をしてる。
あなた
五条さんが、
学校の先生…






五条から、あなたの素性は軽く聞いた。

同じ教師となれば、

アイツの悪い印象も多少薄れるだろう。





家入 硝子
家入 硝子
そして、夏油傑だ。





あなたの目の色が変わる。





家入 硝子
家入 硝子
夏油傑も、
ここの生徒だった。
あなた
!?
家入 硝子
家入 硝子
私と五条と夏油は、
同期なんだ。
あなた
ここが、
夏油さんの出身校…?
家入 硝子
家入 硝子
まぁ、そうだな…





色々あって、卒業に至らなかったが___






思い出す、あの頃を…

感情に浸るつもりはないが、

一言でいえば、楽しかった。





家入 硝子
家入 硝子
夏油は良い奴だ。
仲間思いで、真面目で、優しくて、
私は色々と頼りにしていたよ。





何年経っても、

何が起ころうとも、

その性根は絶対に変わっていないと、

私は信じている。





家入 硝子
家入 硝子
それに、五条と夏油、
アイツらは親友なんだ。
あなた
え…




今の関係性について、

私は言及出来ないが…





家入 硝子
家入 硝子
あの二人の仲は、
私でも入れないくらい、
相当深くて固いものだ。





特殊な環境で生きてきた二人だ。

二人にしか分かち合えない何かがあったはずだ。

その出会いこそ、きっと運命だったに違いない。




あなた
そんな…
親友だったら、なぜ…!
夏油さんの足を不自由にしたりするんですか…!?




突然、あなたが激昂する。

取り乱して、私に食ってかかる。





家入 硝子
家入 硝子
それはきっと__
夏油を守るためだ…
あなた
守るって…
家入 硝子
家入 硝子
夏油と君のためだ。
あまり詳細は話せない。
だが、五条は徒にそんなことしない。





夏油を処刑しろと、上層部から命が下っていたんだ。

それなのに、アイツは夏油を死を偽った。

同期の私にもだ…!





家入 硝子
家入 硝子
アイツなりに、
葛藤はあったはずだ。





不器用なんだ、昔から。

他人に相談することも出来ない。

孤独な奴だよ、本当に…





家入 硝子
家入 硝子
大事なことなんだ、あなた。
夏油とはどういう関係なんだ?





本当にそういう関係なら、

私にだって、考えがある。




家入 硝子
家入 硝子
お願いだ。
正直に話してほしい。
あなた
家入 硝子
家入 硝子
妊娠していると伝えたとき、
君は夏油に会いたいと泣いた、
それは、そういうことなんだろう?
あなた
家入 硝子
家入 硝子
夏油と恋人なのか…?





数分間、無言が続いた。







だが、たがが外れたように、

あなたは大粒の涙を流し始めた。

そして、深く深く、何度も頷いた。








あなた
恋人です…っ…





足元が涙で濡れていく。





あなた
私は夏油さんを愛しています…
夏油さんもまた、
私を愛してくれています…





あなたが膝を抱えて蹲る

緊張の糸が切れ、緩んだその背中を、

私は只々、優しく摩った。





家入 硝子
家入 硝子
そうか…
教えてくれてありがとう…
あなた
うぅっ…
夏油さ…っ





あなたはあなたで、

必死に夏油を守ろうとしていたんだ。




健気な子だ。

この子を見ていると、

今のお前が姿が自然と浮かんでくる。




夏油___

私の知っている"あの頃"に戻った気がして、

期待してしまうんだ。













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