涼介の真剣な眼差しに、私は目を丸くしながらじっと見つめ返す。久々に見つめ合うと、やっぱりこそばゆい。
反らしたくなる気持ちを抑えながら、私は彼の口が開くのを静かに待つことにした。
落ち着かない様子で、視線をキョロキョロと動かしながら涼介は再び「あのさ!」と大声を上げた。
好きな人は今、私の目の前にいる。
なんてそんな恥ずかしい事言えるわけがない。でも、「いない」と嘘を吐く勇気も持ち合わせていない。
気まずく思えてた私は、下を向きながら指を絡める。私……どうしたら。
昨日やほんのさっきまでは、絶対に今日涼介に自分の本当の気持ちを告げようと心に決めていた。
でも、いざその時が来てしまうと、どうしても想いを口に出す事を躊躇う私がいる。
伝えたい。この気持ち。
“私は涼介が好き”
どうしても伝えたいのに、それと同じくらい怖いんだ。もしもごめんと断られてしまったら、その後どう彼と接していけばいいのか分からないから。
告白なんてした事ない。
それもそのはず、だって私の“コレ”は初恋なんだから………。
催促をする彼の声が頭上から聞こえてきた。
「えっと……」と口を濁らしながら、優柔不断の私が必死に答えを選ぶ。
顔どころか耳まで尋常じゃないほど熱く火照っているのが分かった。
胸の鼓動がいつも以上に速く脈を打ち、涼介にまでドキドキという胸の音が聞こえているのではないかと言うくらい大きく高鳴っていた。
残念そうに言葉を濁らせた涼介。思わず私は顔を上げた。
もしかして、なんか私……傷つけるような事でも言ってしまっただろうか?
とても心配になり、眉をひそめながら彼の顔を覗いた。
――驚きのあまり、言葉を失った。
今、涼介がなんて言ったのか、もう一度頭の中で繰り返すが、何度思い返しても私の事を「好き」だと言ったようにしか思えなかった。
状況をやっと理解した私の口からこぼれた間の抜けた声に、涼介は無理矢理な笑顔で「……なんて可笑しいよな」とはぐらかした。
結果、私に勇気をくれたのは涼介の精一杯の“告白”だった。
苦しい程に高鳴る胸を必死に抑えながら、私は真っ赤に染まった顔を上げ、涼介の目を見捉えた。
「涼介が好き……!」
私の言葉を綺麗さっぱりと掻き消したのは、私の身体を強く抱き締めた涼介だった。
突然の事に唖然とする私に、涼介は震えた声で告げる。
私から離れた涼介は、切なげに微笑みながら「ありがとう」と目に涙を浮かべた。
全くと言っていいほど気づかなかった。
どころか私は、神谷先輩のような強くて綺麗なモデルさんみたいな人が好みなんだと勝手ながら誤解していたらしい。
やっぱり鈍感な涼介は気づいていなかったらしい。……なんて言ってもお互いに鈍感過ぎて気づけていなかったみたいだけど。
誰に問うわけでもなくただ1人で呟いた涼介に、私は勝手に答える。
子供のように浴衣の袖を掴み、恥ずかしそうに口を尖らせながら首を傾げた。
君と私は幼なじみ。
小学生の時からずっと一緒だった。
一番近いところにいたはずの君。
いつしか君は、手を伸ばしても届かないところで“みんなの山田涼介”として輝いていた。
そんな、いつの間にか空いてしまった君との距離がとても切なくて、苦しくて……辛かった。
でも、今はそんな遠く感じていた君との距離さえ愛おしい。
――――私は何度も君に恋をする。
“一番近くて遠い君”に。
ーfinー
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。