翌週、英語の授業が終わると私は次の教科の確認のため時間割りに目をやる。
すかさず由奈は私に聞いてきた。
返す言葉もなく渋々と準備をし、教室を移動した。そしていつもの決められた席に着く。
始業のチャイムと同時に教科担任の榎本先生が入ってきて授業が始まった。
黒板に文字を書きながら話す先生の後ろ姿を見ている私はうつらうつらと視線が落ちていった。先生の後ろ姿から机へと完全に視線が落ちると、落書きに目が留まり、目が覚める。
(あ、この前消し忘れちゃったんだ……)
そう思い出し消しゴムを手に取ると自分の書いたはずの落書きが増えている気がした。よく見ると──
‘あ~つまんないの‘
↓
‘あ~……俺もつまんない‘
とご丁寧に矢印付きで書き足されていた。
(何これ……。この人も理科嫌いなのかな……?)
不思議に思った私は自分の書いたところだけを消して落書きを書き直した。
‘あなたも理科嫌いなの?‘
↑
‘あ~……俺もつまんない‘
と、落書きを残してみた。
(この人も相当ひまなんだろうな)
そんなことを思っていたら、その返事を書いた次の授業でまた私宛に落書きがしてあった。
‘あなたも理科嫌いなの?‘
↓
‘いや? 俺はどっちかと言えば理科は好き‘
好き……
その響きにドキッとした。
(いやいやいや……私に対して好きって言ってるわけじゃないんだし、ドキッとしてどうすんのよ)
胸に手を当て小さく深呼吸をして、また落書きに返事をした。
‘それなのにつまんないの? 変わった人だね。落書きに返事なんかしてるし。ところであなたは何組ですか?‘
(どんな人なんだろう……)
漠然と考える。だって……ここは全校生徒が使う教室。
隣のクラスの人かもしれないし、一年かもしれない、はたまた三年かもしれない。
(でも男子なのはまちがいないはず! ‘俺‘って書いてあるもんね)
一人で妄想にふけっていると──
突如由奈に声をかけられ我に返る。
突然声を上げたため榎本先生に叱られ、クスクスと皆に笑われた。
フンと鼻を鳴らして由奈は授業を真面目に受け直した。
だけど私はこの落書きの主がどんな人物かふたたび考え始める。
──何となく、
何となくだけどこの文面からは自分に似ている人のような気がした。
それからというもの、週に二度ある理科の授業は苦痛から楽しみへと一変した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。