俺はノアと出会った昔のことを思い出した。
俺とノアは同級生でも何でもない。
そんな俺達の出会いは、小学生の頃に遡る。
その日、俺はいつものように友達と公園で遊んでいた。友達は17時のチャイムと同時にそれぞれ帰宅して行ったが、夏のまだ陽が長い日だったので、俺はもう少し公園で遊ぶことにした。
すると、人が少なくなって賑やかい声が聞こえなくなると遠くから軽快な音楽が聴こえることに気付いた。何だろうと興味本位で音楽のする方へ向かうと、音楽に合わせてダンスを踊る男の子がいた。俺と同い年くらいだろうか。長い手足が可憐に空を舞って伸びていて、そのしなやかな動きに目が奪われた。
彼が止まると俺は思わず、大きな拍手をしてしまった。それを聞いて、彼はビクッと肩を竦ませて恐る恐る後ろを振り向いた。
その彼の顔を見て、俺はまた驚いた。だってめちゃくちゃイケメンだったから。
話してみたいと思った俺は、コミュ力の高さで、自ら話し掛けに行った。ダンスが好きで、レッスンがない日はこうして公園で踊っているのだとか。俺より一つ年下であるとか。同じ小学校であることとか。更には家が思ったよりも近いことが判明して、嬉しかった。共通点が多かったこともあり、仲良くなるのに時間はかからなかった。
ノアは人見知りだったけど、俺の話を頷いて聞いたり、質問には丁寧に答えてくれたりしていつも優しく接してくれた。
だから、俺は普段友達と居る時とは違う、穏やかな気持ちになる感覚と居心地の良さを感じていた。いつしかノアに会いたい、一緒に居たいと自然と思うようになり、友達と遊んだ後はノアと過ごすことが多かった。学校でも見かけていたけど、学年も違うとなるとあまり接点がなくて関わりもなかったから、この時間が俺にとって楽しくて幸せだった。
小学生の高学年にもなると好きな子やら、あの子が可愛いだのと盛り上がる男友達の姿が見られるようになった。俺はなぜかその話題にイマイチ乗り気になれず、そんなこと話すくらいならノアと喋りたいとすら思っていた。
いつものように過ごした翌日。
それなりに公園にいる曜日が把握出来ていたので、今日も居るのを楽しみにノアがいつも居る場所に足を向けようとすると、違和感を感じた。音楽が聴こえなかった。そして、その日ノアはしばらくしても現れなかった。その翌々日も、一週間後も、一ヶ月後もノアはその場所に居なかった。
そういえば、学校でも見掛けていないと思って、ノアと仲良くしていた同級生に話し掛けると、引っ越したという。しかも韓国に。驚きを隠せなかった。俺に話してくれても良かったじゃん。何も伝えられず、目の前から居なくなったノアに無性に腹が立ったが、それよりも悲しくて寂しくて、俺は涙が枯れ果てるまで一晩中泣き続けた。
そして、自分の気持ちに気付いたんだ。ノアが好きなんだと・・・、俺の初恋だった。
その人物が成長して現れたのだ。だが、妹の彼氏として。どんな仕打ちだよ。神は俺に罰を与えたいのだろうか。俺が何をしたって言うんだよ。何で・・・、よりにもよって妹の彼氏なんだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。