第27話

妹の彼氏 Ⅰ
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2023/05/06 13:00
ピンポーン。


にいに〜!ちょっと出て〜。
啓永
えー。しょうがねぇなあ。

俺、綱啓永は一応、芸能活動をしている。まぁ、まだまだ世論には知られていないんだけど、少しずつ仕事ももらえるようになってきた。

今日はオフだったのに、妹だからって俺をこき使いやがって・・・。文句を心の中で呟きながらも、可愛い妹のお願いにイエス以外の答えはない。残念ながら、俺は相当なシスコンだ。
啓永
はーい。
俺は急ぎ足で、玄関に向かうとドアを開ける。







「「 えっ・・・・・・。 」」



な、な、なななななんで!?









ノア?








NOA
ど、どうして啓ちゃんが居るの?
啓永
いやいや、こっちのセリフだって。
何でここにいるの?
NOA
のんちゃんの家ってここだよね?
啓永
い、妹に何か用・・・?
すると、ドタバタと駆けてくる足音が聞こえる。
ご、ごめん!お待たせしました。
にいに、出てくれてありがとう!
じゃあ行ってきまーす。
言葉の通り、嵐のように去って行った妹。

俺は二人が出て行った玄関のドアを見つめながら、呆然と立ち尽くしていた。

啓永
ど、どういうこと・・・?
一人呟きながら、先程の出来事を整理する。

そう言えばアイツ、昨日から彼氏とデートだとか何とか言ってたような・・・。っていうことは、ノアが彼氏だったの!?え、ま、マジか・・・。そんなことあるんだね。世間狭いわー。

俺の中で出た答えに、胸のあたりがギュッと苦しくなって、思わず胸元の服を握り締めると、前かがみになってこの思いを逃がすことに努めた。



その日は考えごとをしていたら、空が暗くなっていた。結局、ベッドの中で一日が過ぎていった。


ただいま〜。
上機嫌な妹の声が聞こえて、目が覚める。

気付いたら眠っていたようだ。空腹を感じたので、何か食べようと重たい身体を起こすと、階段を降りた。
あ、にいに。ただいま〜。
啓永
おかえり。
ねぇ、ノアくんと知り合いなの?
啓永
な、何で?
何か、今日やたらとにいにのこと聞かれたんだよね。
啓永
そ、そうなんだ。
仲良いの?
啓永
な、仲良い・・・のかなあ・・・?



俺はノアと出会った昔のことを思い出した。


俺とノアは同級生でも何でもない。

そんな俺達の出会いは、小学生の頃に遡る。

その日、俺はいつものように友達と公園で遊んでいた。友達は17時のチャイムと同時にそれぞれ帰宅して行ったが、夏のまだ陽が長い日だったので、俺はもう少し公園で遊ぶことにした。

すると、人が少なくなって賑やかい声が聞こえなくなると遠くから軽快な音楽が聴こえることに気付いた。何だろうと興味本位で音楽のする方へ向かうと、音楽に合わせてダンスを踊る男の子がいた。俺と同い年くらいだろうか。長い手足が可憐に空を舞って伸びていて、そのしなやかな動きに目が奪われた。

彼が止まると俺は思わず、大きな拍手をしてしまった。それを聞いて、彼はビクッと肩を竦ませて恐る恐る後ろを振り向いた。

その彼の顔を見て、俺はまた驚いた。だってめちゃくちゃイケメンだったから。

話してみたいと思った俺は、コミュ力の高さで、自ら話し掛けに行った。ダンスが好きで、レッスンがない日はこうして公園で踊っているのだとか。俺より一つ年下であるとか。同じ小学校であることとか。更には家が思ったよりも近いことが判明して、嬉しかった。共通点が多かったこともあり、仲良くなるのに時間はかからなかった。

ノアは人見知りだったけど、俺の話を頷いて聞いたり、質問には丁寧に答えてくれたりしていつも優しく接してくれた。

だから、俺は普段友達と居る時とは違う、穏やかな気持ちになる感覚と居心地の良さを感じていた。いつしかノアに会いたい、一緒に居たいと自然と思うようになり、友達と遊んだ後はノアと過ごすことが多かった。学校でも見かけていたけど、学年も違うとなるとあまり接点がなくて関わりもなかったから、この時間が俺にとって楽しくて幸せだった。

小学生の高学年にもなると好きな子やら、あの子が可愛いだのと盛り上がる男友達の姿が見られるようになった。俺はなぜかその話題にイマイチ乗り気になれず、そんなこと話すくらいならノアと喋りたいとすら思っていた。


いつものように過ごした翌日。

それなりに公園にいる曜日が把握出来ていたので、今日も居るのを楽しみにノアがいつも居る場所に足を向けようとすると、違和感を感じた。音楽が聴こえなかった。そして、その日ノアはしばらくしても現れなかった。その翌々日も、一週間後も、一ヶ月後もノアはその場所に居なかった。

そういえば、学校でも見掛けていないと思って、ノアと仲良くしていた同級生に話し掛けると、引っ越したという。しかも韓国に。驚きを隠せなかった。俺に話してくれても良かったじゃん。何も伝えられず、目の前から居なくなったノアに無性に腹が立ったが、それよりも悲しくて寂しくて、俺は涙が枯れ果てるまで一晩中泣き続けた。

そして、自分の気持ちに気付いたんだ。ノアが好きなんだと・・・、俺の初恋だった。








その人物が成長して現れたのだ。だが、妹の彼氏として。どんな仕打ちだよ。神は俺に罰を与えたいのだろうか。俺が何をしたって言うんだよ。何で・・・、よりにもよって妹の彼氏なんだ。
啓永
はは・・・。
乾いた笑いが口から出た。とことんついてねえ。

あの頃から俺も成長してるし、モテないわけでもないからお付き合いもそれなりにしてきた。女とも男とも。でも何か違った。一緒に話してても、遊んでても何かしっくりこないというか、落ち着かないというか。そんな気分だから、顔にも出ていたのだろう。相手も俺の態度が気に食わなかったのか、その付き合いも長くは続かなかった。


久しぶりにノアを見て、やっぱり好きだと確信した。

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