第3話

第3話 風馬の弱点
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2019/04/28 09:01

よくよく考えれば、風馬と睦月は姓が違う。


その2人が兄弟、ましてや双子など、可能性はあるのか。
花岡 美鳥
花岡 美鳥
あ、また変なことを言って……! ごめんなさい

美鳥がはっとして謝ると、風馬と睦月は目を丸くして顔を見合わせていた。
花岡 美鳥
花岡 美鳥
(ど、どん引きされてる!)

頭のおかしいやつだとでも思われているのだろう。


美鳥が青ざめていると、睦月がにこっとして口を開いた。
乾 睦月
乾 睦月
よく分かったね。
僕たちは二卵性双生児なんだよ。
生徒で見抜いたのは、花岡さんが初めて
花岡 美鳥
花岡 美鳥
え……ほ、ほんとに? 双子?
乾 睦月
乾 睦月
うん。
見た目も性格も全然違うから、誰も気付かないし、知らないんだ
花岡 美鳥
花岡 美鳥
でも、名字違う……よね?

睦月によると、2人は別居していて姓も異なるそうだ。


幼少期に両親が離婚して、風馬は父親に、睦月は母親にそれぞれついていくことになった。


ずっと会っていなかったが、高校に入学してから再会し、今までの空白を埋めるかのように一緒にいる時間を増やしているらしい。


だが、双子であることが生徒たちに広まると説明が面倒なので、黙っているというわけだ。
乾 睦月
乾 睦月
だから花岡さんも、僕たちが双子であることは秘密にしてほしいんだ
花岡 美鳥
花岡 美鳥
も、もちろん! 誰にも言わないよ
乾 睦月
乾 睦月
ありがとう

美鳥が快諾すると、睦月はまた爽やかな笑顔を見せた。


夢にまで見た、憧れの王子様が自分だけに笑いかけている姿に、眩暈めまいすら覚える。


美鳥はむしろ、睦月と秘密を共有できることを嬉しく思った。
乾 睦月
乾 睦月
あ、予鈴が鳴ったね
砂川 風馬
砂川 風馬
早く教室に戻るぞ

美鳥の買ったパンは、ベッド横のキャビネットに無傷で置いてあったが、食べる暇はなさそうだ。


それは2人も同じだろうから、美鳥はもう何も言わない。
花岡 美鳥
花岡 美鳥
(貴重な体験できたし、いいや……)

睦月の後ろ姿を見ながら廊下を歩いていると、風馬が美鳥の隣に並んだ。


背が高く体格もいい彼からは、やはり威圧的なオーラを感じ取って、美鳥は縮こまる。
砂川 風馬
砂川 風馬
お前、睦月のこと好きだろ? いつも目で追ってるのって、そういうことだよな?
花岡 美鳥
花岡 美鳥
なっ……な、なん……

睦月には聞こえないように、小声で風馬がそう告げる。


美鳥は、大声を出しそうになるのをすんでのところで飲み込んだ。

砂川 風馬
砂川 風馬
さっさと声を掛けてくればいいのに、3年になってもおどおどしやがって
花岡 美鳥
花岡 美鳥
別に……仲良くなりたいとかじゃなくて、遠くから見られればそれで、いいの……

風馬は首をかしげている。


そのまま数秒考えた後、彼は意外な提案をしてきた。
砂川 風馬
砂川 風馬
俺が、お前らの仲を取り持ってやろうか?
花岡 美鳥
花岡 美鳥
……取り持つ?
砂川 風馬
砂川 風馬
協力してやるってこと。
その代わり、条件がある

美鳥は音を立てずにつばを飲み込んだ。


それはどんな条件かと、身構える。
砂川 風馬
砂川 風馬
花岡は成績いいだろ? 俺に、勉強を教えてほしい……
花岡 美鳥
花岡 美鳥
勉強?
砂川 風馬
砂川 風馬
ああ。
睦月は頭いいのに……俺はどうも勉強が苦手で

美鳥は拍子ひょうし抜けしていた。


一方の風馬は、少しばかり恥ずかしそうに目を伏せている。
花岡 美鳥
花岡 美鳥
乾くんに教わったりは?
砂川 風馬
砂川 風馬
そんなの、恥ずかしくてできるわけないだろ。
なあ、だめか?

仲がいいからこそ、風馬は胸を張って睦月に並べるようになりたいのだ。


あの強面な風馬が、そう頼む姿を――かわいいと美鳥は思った。
花岡 美鳥
花岡 美鳥
そういうことなら……別に交換条件とかいらないから、一緒に勉強する?

あれほど怖かった風馬が、一瞬にして身近に感じられることが、美鳥は不思議だった。

【第4話につづく】

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