よくよく考えれば、風馬と睦月は姓が違う。
その2人が兄弟、ましてや双子など、可能性はあるのか。
美鳥がはっとして謝ると、風馬と睦月は目を丸くして顔を見合わせていた。
頭のおかしいやつだとでも思われているのだろう。
美鳥が青ざめていると、睦月がにこっとして口を開いた。
睦月によると、2人は別居していて姓も異なるそうだ。
幼少期に両親が離婚して、風馬は父親に、睦月は母親にそれぞれついていくことになった。
ずっと会っていなかったが、高校に入学してから再会し、今までの空白を埋めるかのように一緒にいる時間を増やしているらしい。
だが、双子であることが生徒たちに広まると説明が面倒なので、黙っているというわけだ。
美鳥が快諾すると、睦月はまた爽やかな笑顔を見せた。
夢にまで見た、憧れの王子様が自分だけに笑いかけている姿に、眩暈すら覚える。
美鳥はむしろ、睦月と秘密を共有できることを嬉しく思った。
美鳥の買ったパンは、ベッド横のキャビネットに無傷で置いてあったが、食べる暇はなさそうだ。
それは2人も同じだろうから、美鳥はもう何も言わない。
睦月の後ろ姿を見ながら廊下を歩いていると、風馬が美鳥の隣に並んだ。
背が高く体格もいい彼からは、やはり威圧的なオーラを感じ取って、美鳥は縮こまる。
睦月には聞こえないように、小声で風馬がそう告げる。
美鳥は、大声を出しそうになるのをすんでのところで飲み込んだ。
風馬は首を傾げている。
そのまま数秒考えた後、彼は意外な提案をしてきた。
美鳥は音を立てずに唾を飲み込んだ。
それはどんな条件かと、身構える。
美鳥は拍子抜けしていた。
一方の風馬は、少しばかり恥ずかしそうに目を伏せている。
仲がいいからこそ、風馬は胸を張って睦月に並べるようになりたいのだ。
あの強面な風馬が、そう頼む姿を――かわいいと美鳥は思った。
あれほど怖かった風馬が、一瞬にして身近に感じられることが、美鳥は不思議だった。
【第4話につづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。