目を開けると、そこには見たこともない景色が広がっていた。
周りには、急いで荷支度をする人たちがいた。
さっきまでいたはずの私の部屋とは違い、どうやらどこかの村らしい。
すると、奥の方にいた、牛のような角が生えた人間ではない生き物がこっちの方に来た。
優を遮ったのはさっきのおじいさん。
謎の生き物に土下座をし始めた。すると、生き物は満足したのか、「ふんっ、次回からは気をつけろ」と偉そうにおじいさんに命令した。
ひよりがお礼を言ったのに、おじいさんはひよりを無視して、
と叫ぶ。
そう言って優は私の頬をつねった。
いっっった!!
…てことは、夢じゃないの?
怒る私を見て笑う優。ひよりはそれどころじゃなさそう。
私も優も、ひよりの意見に賛成してすぐにあそこを出た。
───あそこを出ると、私たちはあのおじいさんを質問攻めにした。
ひよりに言われて見ると、おじいさんはすっかり困り果てていた。おじいさんの奥さんだと思われるおばあさんも、困っていた。
ひよりは定期テスト学年一位。そんなひよりなら、なにか知っているかと思って聞いたが、ひよりは頭を横に振った。
どうすればいいの!?ゲームの中に入ったって…意味分かんない!!
魔王を倒す……かあ。
え?あ、本当だ。優が勇者?あの泣き虫な?昔、夜遅くにやってたホラー映画を見てシクシク泣いてた、あの優が魔王を倒す?
本当だ、ひよりは弓を持ってる。そういえば、ひよりは弓道部のエースだった。
…ということは、私が魔法使い。
おじいさんが私に期待の眼差しを向けてきた。
…あ。
ひより💢
あ、優、絶対信じてないな。まあ私がでまかせ言っただけなんだけど。
おじいさんとは違い、だいぶ丁寧な説明をしてくれたおばあさんにお礼を言うと、私たちは歩き出した。
そう。私たち3人だと、全く勝てる気がしない。
なんて話しながら進んでいると、魔物が出てきた。
優がバカ正直に答えた。ひよりを見ると、ひよりも目尻を押さえていた。
魔物でさえ驚いたみたい。さすが優。
いやでもそれって、魔物が仲間を呼ぶパターンでは…
あ、違った。
魔物が叫んだと思うと、一瞬でたくさんの魔物の分身が現れた。
ひよりは実力を見せた。さすがは弓道部エースだ。それに比べて優は、ただアニメの勇者を必死に思い出して振るだけ。キレが無さすぎて驚く。
魔物が急に爆笑しだした。私は腹が立ったから、ズツーユを使ってやった。
すると、魔物は更に笑いだした。
しかし、突然真顔に戻った。
そして、だるそうな顔を浮かべた魔物。よく見ると、額に汗が滲んでいる。
優とひよりは魔物をここぞとばかりに攻撃しだした。
そう言って魔物は力尽きた。
私がドヤると、優とひよりは呆れ気味。
そんな話ながら歩いていると、森に入った。
そして、魔物が息切れてきたとき。ひよりが言った。
魔物は私が魔法使いだというのを知って驚いた。
ふふ、もっと驚け!
魔物は最初、頭に?を浮かべていたが、数秒後、
と絶叫した。その後も、ジンジンしたのかヒイヒイ言いながら優とひよりにボコボコにされていた。
そう言ってまたもや魔物は力尽きた。
ひよりの言う通り、もうアルチアに来ていた。
優が指差したのは酒場。「暴れん坊酒場」
そうして私たちが入るのをためらっていると、後ろから大きな男の人が来た。
男の人は迷わずカウンター席に座ると、主人と話し始めた。
と、優が呟く。その通りだ。「いつもの」と言うだけで飲み物が運ばれてきたのだから。
私はかわいいひよりがあの男の人に気に入られないか、怖いだけ!
そう言ってヒューゴは微笑んだ。よく見ると、私たちと同い年くらいかもしれない。
…若く見えるってこと?それとも幼いってこと?
ああそっか、優は6月生まれだから18なのか。私とひよりは早生まれだから17。
クールな印象のヒューゴが驚いているのは、驚きだ。
ひよりは人見知りだから初対面の人を呼び捨てできないんだよね
ん??ということは、ヒューゴのご両親が亡くなって、ヒューゴは叔父さんである、ここの主人に育ててもらったんだ。
私たちは空気が重くなって気まずくなり、料理を頼んだ。
私たちは顔を見合わせた。ゲームの中に入ってしまったのだから、彼らは日本なんて国は知らないだろう。
私たちは桜町に住んでる。そういえば、梨奈とお母さんは心配してるかな。優とひよりのご両親だって必死だよね。特にひよりのお父さんがすごい探してそう。
そりゃそうだよね、世界が違うんだもん。
ああ、ここでは中学校もないのか。
まあね。
魔王を倒しに来たって言ったら戦闘が始まるかな?まあいざとなったら私の呪文で倒してやる!
バカああ!私今、正直に言うか迷ったのに!
驚くことに、ヒューゴの理解は早かった。完全に理解しているわけではなさそうだけど、それでも大半は理解しているだろう。
この流れなら、いけるかも…!
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。