第102話

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2023/08/08 15:11







「よかったです。」


そう言って笑った昨日の彼女の笑顔が、今でも瞼の裏に浮かんでくる。いつもは照れくさそうに片手やマスクで顔を隠してしまう彼女が、真っ直ぐ俺を貫いた。

彼女がいない過去があって、彼女にも俺と出会っていない過去があって。
そしてこうして心を通わした昨日があると思うだけで、今がこれほど嬉しくて、愛しいと思えるなんて。





昨日の熱冷めやらぬまま現場入りした俺に、待っていたのは新しい衝撃だった。


チーフ「皆さん聞いてください。」


いつもと異なった様子を察知し、全員すぐに耳を傾ける。楽屋ではいつもふざけ倒してる俺たちが、こんな風になることはあまりない。


チーフ「岡田さんが昨日退職しました、」


え?


ジェシー「ええぇっ?!」

慎太郎「本当に言ってる?」

髙地「ドッキリとかじゃない?」

チーフ「はい残念ながら事実です、、、なので、」

樹「待って、それって会社が?それとも」


樹の質問は皆の気になるところだったらしく、どう答えるかを全員で静かに待つ。


チーフ「岡田さんの希望です。」

樹「そっ、か。」

チーフ「はい、これからの体制がまた少し変わるので、それだけお願いします。」


全員まばらに返事をし、チーフマネージャーは退室した。

それぞれ異なった反応、リアクションを取っているが、5人が何と言っているかも入ってこない。ぐるぐると思考がループする。

そういうこと?
いや、どういうこと?
だから、昨日楽しそうだったの?
最後だから?彼女にとっては最後の業務だったから?


髙地「北斗?」

北斗「ちょっと、電話…してくるっ、」


すぐ戻ると伝え楽屋を出る。
スタジオの中でも今日は人があまり寄り付かない、使用しない衣装部屋に入る。

天井を仰ぎ一度だけ深呼吸をする。落ち着け、落ち着け。
震える手を制し、なんとか彼女へ通話をかける。しばらく流れた呼び出し音の後、彼女の声が聞こえた。


『…はい。岡田です。』



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