「おはようございます!」
6人揃った撮影の日。バラバラと集まったメンバーへ挨拶をすると、強弱・タイミング、皆さんそれぞれに挨拶を返してくれた。
その中でも松村さんはすぐに私の前に現れた。ふふと微笑むその姿はとても整っていて、毎回新鮮に驚ける。
えっ、顔良すぎ。朝のコンディションとは思えない。
北斗「岡田さん、前髪跳ねてるよ」
「えっ…」
松村さんがご自身のおでこを指先でトントンと叩く。私はそれを見て、慌てて両手で前髪を押さえた。
「直りました?」
北斗「直りました。」
前もこんなやりとりしたなぁ、と振り返る。ずっと跳ねかしたままでいるところだったので、小さく両手を合わせ感謝を伝える。
樹「準備できた?いける?」
「はい、田中さんと森本さんから順番にお願いします!」
慎太郎「はーい!」
まずは二人組ずつのカットから。
全員衣装の方向性が良い。意表を突くスタイリングでもあり、彼らに絶対的に似合う形に落とし込んでいる。衣装さん、助かります!
北斗「楽しそう。」
「はい、とても楽しいです。天職です。」
北斗「それは、…そう言ってくれるのが1番嬉しい」
「?そうなんですか、?」
北斗「誰かが用意した居場所だって言ってた、岡田さんが、そう言ってくれると、」
松村さんが少しだけ言葉を詰まらせて、優しい眼差しが一瞬揺れた。
北斗「俺も嬉しい、本当に」
ああ、本当にこの人は、この人のことが、
「松村さん、」
北斗「ん?」
私が少し小さな声で呼びかけると、私に目線を合わせるように少し屈んで耳を寄せてくれた。
その姿勢に甘えさせていただき、私も耳打ちするように、片手を口元に添えて小声で応える。
「かっこいいです、誰よりも。」
北斗「えぇ?今日どうしたの?」
「別に、いつも通りですよ。」
北斗「そお?絶対そんなこと言わないじゃない。」
松村さんは驚いたように仰け反って、わざとらしく手を顎の下に持っていき、うーんと唸った。
「はい。今までずっと思ってました。うちの松村はかっこいいんだぞって、6人全員魅力的だぞって。」
北斗「岡田さん、、。」
「今まで松村さんにも、皆さんにも、ちゃんと伝えられなくて。だからきちんと伝えたくて、と思いまして。はい。」
ハッキリ伝えるために口にしたものの、恥ずかしさで溶けてしまいそう。もう赤くなっててもいいから、全部彼に届いてしまえばいいのに。そんなことまで考えていた。
のに。
北斗「伝わってたよ。」
「え?」
北斗「なんで?言葉だけじゃないよ、そういうことは。」
それは心からの言葉。真っ直ぐ私の心に刺さる。
ねえ、泣いてしまいそう。
「…。そうなんですか。そうですか、」
北斗「そうです、そうです。」
「それなら、よかったです。」
このことは私にとって、とっておきの出来事となった。
この先何があっても、私はきっとずっと忘れない。忘れたくなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!