浦田くんについて行くこと3分。
その"いいとこ"に着いたみたい。
「…浦田くん。なぜ、プール……?」
そう。
今は2人でプールサイドに、ぽつんと立っている。
「涼しくて、人がいないから」
「それは、そうだけど……」
そう言うと浦田くんは、靴を脱ぎ始めプールに足をつけた。
そして、寝転がって教科書を眺めはじめたのだ。
……まぁ、いっか。
わたしも靴を脱いで足をつけてみた。
「わっ冷た…。」
ぱしゃっ
「!……え、なに?」
突然浦田くんが水をかけてきた。
しかも、それは1回だけでなくどんどん水をかける量も、増えていった。
次第に周りの音は、ばしゃばしゃという音しか聞こえなくなった。
「ちょ、わ、わわ!」
やっと止まった浦田くんの手。
浦田くんがニヤニヤしていたのは見逃さなかったからね!
「もう!……制服びしょ濡れになっちゃったよー」
…って何楽しんでんの!?
わたし!
勉強しに来たんじゃん!
とりあえず教科書を出そう。
そう思いカバンを漁っていると、スマホがチカチカ光っているのが見えた。
なんだろう……?
スマホを手に取ると、ディスプレイには、悠からの電話が3件も来ていたことを示していた。
「……あの、わたしちょっと電話出てくるね。」
そう立ち上がろうプールサイドに手を着くと、浦田くんはわたしの手をおさえ、行く手を阻んだ。
「………浦田くん?」
「ゆーくんってさ、ついこの前まで別の女の子と付き合ってたんでしょ?」
「…………」
「……フツー好きな人ってそんなすぐ変わんないじゃん。あいつの"大事"は桧山とは別の気持ちだよ。」
全身の力が抜けた。
気づいていた。
何となくわかってたんだ。
でも知らんぷりしたかった。
全てを手放す感覚
右手にスマホを持っていることも忘れて。
「_______山っ」
「っ!」
「桧山!」
「……あ、わっスマホが!」
「まて、俺がとる」
浦田くんの助言に耳を貸さず、急いでプールに落ちたスマホを取ろうとした。
早くしないと壊れちゃう。
そう急いだのが悪かった。
突然体がぐらりと揺れバランスが取れなくなった。
「おいっ!桧山!」
「きゃっ」
ドパーン…………
案の定プールに真っ逆さまだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。