第13話

No.13 判りきっていた事実
1,074
2024/01/03 07:00

乱歩さんが待ち合わせ場所に指定した喫茶店は、
私が今まで行ったことがないお店だった。



『うずまき』というお店らしい。

店内に入ったときから香る
珈琲コーヒーの薫りが私の鼻をくすぐった。





店内を見回してみると、窓際の4人席の
ソファーに座っている乱歩さんの後ろ姿を見つけた。


慌ただしく動く自分の心臓を落ち着かせるために
深呼吸を一度してその席へ向かう。


コツコツ…私の足音が店内に響く。
あなた
乱歩さん、お久しぶりです。
江戸川乱歩
……
あなた
今日は素敵なお誘いをありがとうございます。とても嬉しいです。
江戸川乱歩
……

乱歩さんの様子がおかしい。


私が話しかけても、うつむいたまま
何か考え事をしているようだった。

その表情は影になって善く見えないけれど、
なんだか胸が苦しくなるような顔をしていた。
 
江戸川乱歩
あなた……

彼は突然、私の名前を呼んだ。

彼が視線を上げ、目の前に座っている私の方を向く。彼の瞳はやっぱり美しくて、思わず息を呑む。

江戸川乱歩
僕も知ってるのに黙ってるのは好きじゃないから言うんだけど……








江戸川乱歩
あなた、ポートマフィアだよね。
あなた
ぇ…なにを___
江戸川乱歩
惚けなくて善いよ。
江戸川乱歩
ポートマフィア五大幹部の中原中也。
その幹部補佐、癒月ゆづきあなた。
江戸川乱歩
そうでしょ?
あなた
ど、どうして…
どうして、そんなことが判るの?
江戸川乱歩
前に言ったでしょ?
僕は世界一の名探偵だ…って。

あぁ。そうだったんだ。

最初から、この想いは叶う筈が無かったんだ。




“私が闇の世界の人間であることが知られた”

その事実が何よりも辛くて、
泣いてしまいそうになる。


私と彼は最初から違ったんだ……


光の世界の人間である彼。
闇の世界の人間である私。

相対する私と彼が
結ばれるだなんてあり得ないことだったんだ。

彼が何か言っているけど、
モヤがかかったみたいに善く聞こえない。



だけど、きっと私を幻滅したに違いない。

だって、私は彼に相応しくないのだから___
 
江戸川乱歩
でもね、あなた。
僕は____
あなた
今日は、ありがとうございました。

私は彼の言葉さえ最後まで聞かず、
ただその一言だけを告げて喫茶店を出た。


彼が私を呼ぶ声が聞こえる。

追いかけてくる音が聞こえる。




だけど、これ以上彼に否定的な言葉を吐かれたら
私はきっと立ち直ることができない。

だから私は彼の静止も構わず走り続けた。



「ごめんなさい。」

その言葉は彼に伝えられず、
私の心のなかを彷徨い続けた。

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